全 情 報

ID番号 : 08857
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 日本ヒューレット・パッカード事件
争点 : コンピュータ会社のSEが諭旨退職処分を無効として地位確認、給与の支払等を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 :  コンピュータ会社に勤務するシステムエンジニアXが、40日間の無断欠勤を理由とする諭旨退職処分を無効として、雇用契約上の地位の確認、給与、賞与の支払を求めた事案の控訴審である。  第一審東京地裁は、処分は社会的に相当な範囲にとどまるものであるとして、Xの請求のうち将来賃金支払請求に係る部分を訴えの利益がないとして不適法却下し、その他請求を棄却した。Xが控訴。  第二審東京高裁は、Xの欠勤について、会社のとるべき対応として、精神的な不調が疑われるのであれば本人あるいは家族、職場の環境・衛生・安全部門を通した職場復帰へ向けての働きかけや、精神的な不調を回復するまでの休職を促すことが考えられ、また、会社が、精神的な不調がなかったとすれば欠勤を長期間継続した場合には無断欠勤となり、就業規則による懲戒処分の対象となることなどの不利益を告知するなどをしていれば、Xが約40日間にも及ぶ欠勤を継続することはなかったものと認められるとして、会社側が処分の理由とする懲戒事由(無断欠勤、欠勤を正当化する事由がない)を認めることができず、処分は無効として、将来賃金支払請求に係る部分を除きXの請求を認めた。
参照法条 : 労働契約法15条
労働契約法16条
体系項目 : 解雇(民事) /解雇権の濫用 /解雇権の濫用
解雇(民事) /解雇事由 /無届欠勤・長期欠勤・事情を明らかにしない欠勤
裁判年月日 : 2011年1月26日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ネ)4377
裁判結果 : 一部認容、一部却下
出典 : 労働判例1025号5頁
審級関係 : 一審/東京地平成22.6.11/平成21年(ワ)第12860号
評釈論文 : 鳥山恭一・法学セミナー56巻12号125頁2011年12月
判決理由 : 〔解雇(民事)‐解雇権の濫用‐解雇権の濫用〕
〔解雇(民事)‐解雇事由‐無届欠勤・長期欠勤・事情を明らかにしない欠勤〕
 5 本件処分について
 証拠(〈証拠略〉)によれば、本件処分は、控訴人が就業規則51条(欠勤多くして、正当な理由なしに無断欠勤引き続き14日以上に及ぶとき)に該当することを理由にされた処分であるが、被控訴人は、控訴人の行為が無断欠勤に該当し、欠勤を正当化する事由はなく、正当な理由のない欠勤は事前連絡の有無に関わらず許容されていないなどと主張する。
 控訴人は、6月3日に有給休暇をすべて消化した後、被控訴人が主張する「就業報告書」による欠勤届を出していない。
 ところで、被控訴人の就業規則63条では、「傷病その他やむを得ない理由で欠勤するときは、あらかじめ就業報告書により、その理由および見込日数を届け出なければならず、やむを得ない理由により事前の届出ができない場合は、すみやかに適宜の方法で欠勤の旨を所属長に連絡するとともに、その後遅滞なく所定の手続きをとらなければならない」ことになっている。
 控訴人が欠勤を継続したのは、上記説示のとおり、控訴人の被害妄想など何らかの精神的な不調に基づくものであったということができるから、控訴人は、上記就業規則の「傷病その他やむを得ない理由」によって欠勤することが可能であったということができる。そして、控訴人が、A部長から調査をしても被害事実はなかったとの説明を受けながらこれに納得せず、倫理委員会調査チームに更なる調査を依頼して調査の継続を求めていたことからすれば、控訴人には、被控訴人に申告した被害事実が、自己の精神的な不調に基づく被害妄想であるなどという意識はなかったということができ、控訴人のそれまでの状況からすれば、被控訴人も、控訴人が申告した被害事実について、控訴人がこれを自己の精神的な不調に基づく被害妄想であるという意識を有していないことを認識していたということができる。A部長が、被害事実に固執し、休職しようとしていた控訴人に対し、休職の申請についての質問に対して明確な回答をしていないばかりか、勧めていないとか必要ないなどと対応していたことなどを考慮すれば、控訴人が上記就業規則63条により、病気を理由として欠勤を事前に届け出ることは期待することができず、前示の事情の下では、上記就業規則63条の「やむを得ない理由により事前の届出ができない場合」に該当するということができる。さらに、控訴人は、A部長に対して休職届を出す方法を尋ね、調査結果が出るまでは欠勤を継続する意思を示し、6月4日には、被控訴人の人事部門に対して本問題の解決まで特例の休職を申請するなどしていることなどを考慮すると、「適宜の方法で欠勤の旨を所属長に連絡」したものと認めることができる。したがって、控訴人が有給休暇を消化した後に、申告した被害事実を理由に欠勤を継続したからといって、直ちに正当な理由のない欠勤に該当するということができず、これを無断欠勤として取り扱うのは相当でない。
 6月3日の控訴人の電話に対するA部長の対応も、控訴人が申告した被害事実は認められないことと、控訴人に出社を要請するにとどまり、控訴人からの休職願いをどのように出したら良いかとか無断欠勤になるのかなどの質問に対しては明確な回答をしておらず、有給休暇消化後に無断欠勤を継続することは懲戒処分の対象になることなど、控訴人にどのような不利益が及ぶ可能性があるのかを説明していない。上記就業規則63条には事前の届出ができない場合は、「その後遅滞なく所定の手続きをとらなければならない」ことになっているが、その手続について控訴人に対する説明はなかった。控訴人は、B本部長が、同年7月25日に出した出勤命令に対しては異議を述べながらも同月31日にはこれに応じて出社しているのであるから、控訴人の欠勤に対して、精神的な不調が疑われるのであれば、本人あるいは家族、被控訴人のEHS(環境・衛生・安全部門)を通した職場復帰へ向けての働きかけや精神的な不調を回復するまでの休職を促すことが考えられたし、精神的な不調がなかったとすれば、控訴人が欠勤を長期間継続した場合には、無断欠勤となり、就業規則による懲戒処分の対象となることなどの不利益を控訴人に告知する等の対応を被控訴人がしておれば、6月4日から7月31日まで約40日間、控訴人が欠勤を継続することはなかったものと認められる。
 そうすると、被控訴人が本件処分の理由としている懲戒事由(無断欠勤、欠勤を正当化する事由がない)を認めることはできず、本件処分は無効と言うべきである。