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ID番号 : 08876
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : ジャストリース事件
争点 : リース会社を解雇された者が地位確認、未払賃金及び損害賠償を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : リース・割賦販売事業、債券売買及び不動産仲介・あっせん・媒介等を営む会社Yの代表取締役で、Y解散後は「本社の管理職」を務めた後解雇されたXが、地位確認、未払賃金及び不当解雇(不法行為)を理由とする損害賠償を求めた事案である。 東京地裁は、まず雇用契約書の内容、「勤務シート」による時間管理の実態等からXが労働者であることを認めた。その上で、Y主張の「背任行為への加担」について、そもそも加担すべき背任行為がなく、「不当に高額な給与の受領」については、Yからの給与減額の申出に対する誠実対応義務に反する対応をしたとはいい難く、また「協力義務違反」についても、義務そのものが漠然としていてそのような義務は負っておらず、人的理由に基づく解雇事由は客観的に合理的な理由がないとした。次いで、Yの「整理解雇」である旨の主張についても、本件解雇が必要性に欠け、また解雇の回避に向けて十分な努力が尽くされておらず、被解雇者の選定手続も合理性に疑義があるなど、解雇もやむを得ないという客観的かつ合理的な理由は認められず、この結果、労働契約法16条所定の「客観的に合理的な理由」に欠けるとして解雇の無効を認めた。他方、損害賠償請求については、地位保全、賃金支払いが認められればXの被った不利益は解消されるとして、これを棄却した。
参照法条 : 民法709条
労働基準法9条
労働契約法16条
民事訴訟法135条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事) /労働者 /タイトルデザイナー、プログラマー
労基法の基本原則(民事) /労働者 /委任・請負と労働契約
解雇(民事) /解雇事由 /不正行為
解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇の必要性
解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 : 2012年5月25日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23(ワ)23561
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1056号41頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐タイトルデザイナー、プログラマー〕
〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐委任・請負と労働契約〕
 2 争点1-本件請求(1)に関する争点〔中略〕
 以上によると本件契約書は、原告が、平成22年3月1日から本社において、所定の休日を除いた就労日に、所定の就労時間(午前9時15分から午後6時)、管理職としての業務に従事することを定め、これに対し被告が所定の支給日(毎月末締め当月25日)に月次給月額87万5000円(税及び社会保険料の控除前)を原告に支払うことを約した契約書面(雇用契約書=処分証書)であると認められ、そうだとすると本件契約は正に「労働契約」そのものであって、特段の事情が認められない限り、本件契約の一方当事者である原告は、使用者たる被告のために労務を提供し、その対価たる賃金等を得て生活する者、すなわち労基法上の「労働者」に該当するものというべきである。
〔解雇(民事)‐解雇事由‐不正行為〕
 (2) 争点1-(2)
 ア 人的理由に基づく解雇について
 (ア) 人的理由に基づく事由a-「背任行為への加担」について
 a 上記解雇事由に関する被告の主張は、被告の解散及びこれに続く本件特別清算の申立て(以下「本件特別清算の申立等」という。)に係るC前代表清算人の行為が背任行為に当たることを前提としている。しかし、本件特別清算の申立等の経緯及び理由は、前記基礎事実(2)ないし(4)において認定したとおりであって、この認定事実によると本件特別清算の申立等に係るC前代表清算人の一連の行為が被告に対する背任行為に当たるものとはいい難く、したがって、被告の上記主張は前提を欠くものというべきである。〔中略〕
 c 以上によれば、上記人的理由に基づく解雇事由aは認められず、したがって、この点に関する被告の上記主張を採用することはできない。
 (イ) 人的理由に基づく解雇事由b-不当に高額な給与の受領〔中略〕
 b 以上によれば、上記人的理由に基づく解雇事由bは認められず、したがって、この点に関する被告の上記主張を採用することはできない。〔中略〕
 (ウ) 人的理由に基づく解雇事由c-協力義務違反〔中略〕
 b 以上によれば、上記人的理由に基づく解雇事由cは認められず、したがって、この点に関する被告の上記主張を採用することはできない。
 (エ) 小括
 以上によれば、被告が主張する人的理由に基づく解雇事由は、いずれも労契法16条にいう「客観的に合理的な理由」に当たらないものというべきである。
〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の必要性〕
〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 イ いわゆる整理解雇について
 (ア) 整理解雇の基準〔中略〕
 (エ) 小括
 以上によれば、本件解雇(整理解雇)は、その必要性に欠けるばかりか(要素〈1〉の欠如)、仮に、その必要性が認められるとしても、解雇の回避に向け、十分な努力を尽くさずに行われたものであって(要素〈2〉の欠如)、その被解雇者の選定手続の合理性についても疑問があること(要素〈3〉の欠如)などを併せ考慮すると、解雇に至るのもやむなしとするほどの客観的かつ合理的な理由があるとは認められず、したがって、本件解雇(整理解雇)は、就業規則45条1項4号所定の解雇事由には当たらず、労契法16条所定の「客観的に合理的な理由」に欠けるものというべきである。
 なお被告は、本件解雇の効力に関しても原告本人尋問等の申出をしているが、その各主張内容からみて、原告本人尋問等の申出を採用する必要性はないものというべきである。
〔解雇(民事)‐解雇事由‐不正行為〕
〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の必要性〕
〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 ウ 結論―付・原告の賃金請求権の有無等
 以上によれば、本件解雇は、労契法16条所定の「客観的に合理的な理由」に欠け、無効であることに帰着する。
 そうすると原告は、被告に対して、本件雇用契約上の権利を有する地位を有しているところ、前記前提事実(2)ア及び上記ア(争点1-(1))の検討結果によると原告は、本件雇用契約に基づき、被告に対し、毎月25日限り、月額125万円(時間外手当を含む。)の賃金請求権を有しているものと認められる。
 なお原告の上記賃金請求権の支払期日が未到来の部分のうち本判決確定の日までの分については、あらかじめ支払を求める必要性を肯定することができるが、それ以降の分についてはその必要性を認めるには足りない(民訴法135条)。
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 3 争点2-本件請求(2)に関する争点
 (1) 本件解雇の不法行為性について〔中略〕
 特段の事情がない限り、慰謝料請求権の発生を肯認しうる違法行為と評価することはできないものと解されるところ、本件請求(1)が認容された場合、原告は、被告に対し、本件雇用契約上の権利を有することが確認されるとともに、本件解雇時に遡って、月額125万円もの高額な賃金請求権を有することになるのであるから、前記第2の3(2)アに記載の各事情をもって上記特段の事情に当たるものとはいい難く、他にこれを認めるに足る主張・立証はない。
 よって、原告は、本件解雇に伴う慰謝料を請求することはできず、原告の主張は理由がない。