全 情 報

ID番号 : 08919
事件名 : 療養補償給付不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 : 国・川崎南労働基準監督署長(第一鉄工)事件
争点 : 鉄工会社従業員が頸椎症性脊髄症・腰痛症を労災と認めなかった不支給処分の取消しを求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 鉄工会社従業員Xが、上肢障害及び腰痛症の発症は本件会社での過重な業務に起因するとして労災保険法による療養補償給付の支給を求めたが、不支給とする処分がなされたため、これの取消しを求めた事案である。 東京地裁は、まず本件上肢障害の発症が業務に起因するか否かについて3つの要件を掲げ、第1の、上肢等に負担のかかる作業への従事の割合について、タップ作業は合計して1日1時間程度の作業量であり、その他に上肢に負荷のかかる作業にも従事していたこと、「上肢等に負担のかかる作業を主とする業務」に約5年もの間従事したこと、第2に、発症前に過重な業務に就労したことについて、タップ作業等においては、両上肢に相当な重量負荷がかかっていて、通常業務による負荷を超える負荷というべきものであって「過重な業務」に当たるとし、第3の、過重な業務への就労と発症までの経過が医学上妥当なものと認められることについて、過重な業務に5年にわたり就労した後に本件上肢障害の診断を受けており、過重な業務と発症までの経過は妥当なものであるとして上肢障害に業務起因性を認めた。次いで本件腰痛の発症と業務起因性についても、タップ作業は「概ね20kg以上の重量物及び軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務」に当たるとして、Xの本件傷病を業務に起因するものと認定し、不支給処分の取消しを命じた。
参照法条 : 労働基準法75条
労働者災害補償保険法7条
労働者災害補償保険法12条の8
体系項目 : 労災補償・労災保険 /業務上・外認定 /業務起因性
労災補償・労災保険 /業務上・外認定 /職業性の疾病
労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /療養補償(給付)
裁判年月日 : 2013年1月16日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(行ウ)710
裁判結果 : 認容
出典 : 判例時報2208号126頁/労働判例1070号126頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労災補償・労災保険‐業務上・外認定‐業務起因性〕
〔労災補償・労災保険‐業務上・外認定‐職業性の疾病〕
〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐療養補償(給付)〕
 3 本件上肢障害の発症が業務に起因するか否か(争点(1))について
 (1) タップ作業自体に伴う上肢への負荷について〔中略〕
 本件において原告の従事していたタップ作業は、1回の鍛造作業時間15分程度のうち1分程度を占める作業であり、合計して1日1時間程度の作業量であるところ、原告は、タップ作業のみならず、タップ作業に準じて上肢に負荷のかかるヘラ作業にも従事していたこと、本件工場の作業の実施例におけるタップ作業及びヘラ作業(以下「タップ作業等」と総称する。)の時間的割合は、平均して全鍛造時間の13.09%(別紙「タップ作業及びヘラ作業の実施例」参照)であることは前記認定のとおりであるし、これに加えて、同実施例の具体的内容に照らしても原告の従事したタップ作業等は、一定程度継続的に行われている作業と評価して差し支えないというべきである。そして、前記判示のとおり、タップ作業等の上肢にかかる負担は高度であることを考慮すると、原告のしたタップ作業等は、「上肢等に負担のかかる作業を主とする業務」に該当すると解するのが相当である。
 (ウ) そして、原告は、かかる業務に約5年もの間従事しているから、同業務に「相当期間従事した」ということもできる。
 (エ) したがって、本件上肢障害の発症については上肢要件〈1〉を満たすということができる。
 イ 発症前に過重な業務に就労したこと(上肢要件〈2〉)について〔中略〕
 また、前記1(2)のとおり、鍛造中はボードハンマーの落下に伴い、事故の危険性もあるため、原告ら鍛造に関わる作業者は、相当な緊張感をもって業務に従事しているというべきであるし、本件工場は相当高温の作業環境なのであるから、本件会社による作業時間への配慮、作業の服装等の貸与、夏の梅干し常備等があるとしても、特に原告の本件傷病の発症(平成20年9月10日頃)直前であった夏季においては、厳しい作業環境であったことは明らかである。
 このような事情に照らすと、原告の業務は「過重な業務」に当たるというべきであって、本件上肢障害については上肢要件〈2〉も満たすというべきである。
 ウ 過重な業務への就労と発症までの経過が、医学上妥当なものと認められること(上肢要件〈3〉)について〔中略〕
 したがって、上記医学的見解の存在は、本件上肢障害につき業務起因性を認める上で、妨げとなるものではない。〔中略〕
 (3) 小括
 以上によれば、本件上肢障害については、認定基準における上肢要件を満たすということができるから、業務起因性があると認めることができる。
 4 本件腰痛の発症が業務に起因するか否か(争点(2))について
 (1) 認定基準への当てはめ
 ア 原告は、本件工場において約5年間にわたりタップ作業に従事したものであるから、腰痛要件のうち、短期間の腰痛要件(前提事実(6)ア(ア))に当たるか否かを、以下検討する。
 イ 前記1(2)のとおり、原告は、20kg程度までの重量のタップをチェーンブロックによる補助なしに使用していたところ、上肢の力だけではなく、腰部を含む全身の力でもってタップを持ち上げることはいうまでもなく、この点で、タップ作業を行う原告に対しては、腰部に対する関係では、少なくともタップを持ち上げる重量分の負荷がかかるということができる。また、タップ作業者がタップの柄の先端側寄りの部分を把持することができない関係上、タップ自体の重量よりも重い負荷がかかることは前記3(1)のとおりであるし、前記1(2)ウ(エ)のとおり、原告は、中腰に近い前傾姿勢という不自然な体勢でタップ作業を行っていたものである。
 このようにみると、原告のタップ作業は、比較的短期間の腰痛要件aの「概ね20kg以上の重量物及び軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務」に当たるというべきである(同要件では、重量について概ね20kg以上とされているが、これについては過度に形式的に考えることは相当ではなく、原告が5年間もの期間タップ作業等に従事し、腰部に負荷をかけ続けてきたことからすれば、同要件に該当するとみても支障はない。)。
 ウ また、原告は、前記1(2)に認定したとおり、把持しているタップの上に直接2.0トンのボードハンマーを落下させて、腰部を含む体全体に強い衝撃すなわち粗大な振動を受けることを繰り返したのであるから、原告のタップ作業は、短期間の腰痛要件dの「腰部に著しく粗大な振動を受ける作業を継続して行う業務」にも当たるものというべきである。〔中略〕
 (3) 小括
 以上によれば、本件腰痛については、認定基準における短期間の腰痛要件を満たすということができるから、業務起因性があると認めることができる。