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ID番号 : 08926
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 三菱電機事件
争点 : 派遣先に中途解約された結果派遣会社に解雇された派遣労働者らが、無効・不法を争った事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 派遣会社Y1ら3社から電機会社Y4に派遣労働者として派遣される形式で就業していたXらが、Y4が各派遣会社に対し労働者派遣契約を解約した結果、それぞれ解雇されたことに関し、Xらの実質的な雇用主はY4で、黙示の雇用契約が成立しており、派遣会社らによる解雇は理由がなく、実質的にY4が主導したもので共同不法行為に当たるとして、Yらに地位確認、賃金の支払及び不法行為に基づく慰謝料の支払を求めた事案である。 第一審の名古屋地裁は、黙示の雇用契約は成立していないがY4とY1には不法行為責任があると判示した。 第二審の名古屋高裁は、まず黙示の雇用契約は不成立と原審を維持した上で、Y4の不法行為について、X1X2の場合はやむを得なかったとする一方で、X3については、やむを得ない理由はあれ、中途解約は労働者派遣個別契約更新の10日後に行われており、既に派遣労働契約の更新をしていたのであるから、雇用の維持又は安定に対する合理的な期待をいたずらに損なうことのないようにするとの信義則上の配慮を欠き、不法行為を構成すると認定した。さらに、Y1ら派遣元会社の責任について、Y1についてのみ、簡単な説明だけで中途解約を受け入れ、やむをえない事由の具体的説明もしないままX1に解雇を通告し、雇用継続に向けた努力や新たな派遣先等の紹介など就業機会の確保に向けた努力や配慮の姿勢もなかったから、不法行為に当たると認定した。
参照法条 : 労働契約法6条
民法709条
民法19条
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律30条
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律40条の4
体系項目 : 労基法の基本原則(民事) /労働者 /派遣労働者・社外工
労基法の基本原則(民事) /使用者 /派遣先会社
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 : 2013年1月25日
裁判所名 : 名古屋高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23(ネ)1246
裁判結果 : 取消自判
出典 : 労働判例1084号63頁/労働経済判例速報2174号3頁
審級関係 : 第一審/名古屋地平成23.11.2/平成21年(ワ)第1252号
評釈論文 : 中山慈夫・ジュリスト1460号115~118頁2013年11月
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐派遣労働者・社外工〕
〔労基法の基本原則(民事)‐使用者‐派遣先会社〕
 (3) 1審原告両名の当審における主張に対する判断
 ア 1審原告両名は、本件請負契約は偽装請負であり、労働者供給に該当して職業安定法44条に違反し、公序良俗違反により無効であり、仮に、労働者派遣に該当するとしても、派遣禁止業務の規制に違反し、かつ、派遣期間の制限にも違反し、常用労働者の派遣労働者への代替防止に反するという重大な違法があるのに、原判決は、これらの事情を考慮せず、1審原告両名について本件派遣労働契約に切替後の事情のみを問題とし、かつ、適法な労働者派遣であるかのような前提に立って特段の事情の有無を判断しており、誤りである旨主張する。
 なるほど、1審原告両名の訴外コラボレートにおける就業実態は労働者派遣にほかならず、当時の労働者派遣法が製造業務への派遣を禁止していたことに照らすと、本件請負契約は労働者派遣を請負の形式で行ったものであり(原判決90頁19行目から92頁15行目までの認定事実)、この点でいわゆる偽装請負であったと解すべきであるものの、職業安定法44条において禁止される労働者供給に当たらず、また、公序良俗に違反して無効とはいえないことは、原判決説示(原判決106頁10行目から17行目までの説示(補正後のもの。以下、同じ。))のとおりである。〔中略〕
 さらに、本件請負契約が偽装請負契約であることをもって、当然に本件請負契約が無効になるといえないことも、原判決説示(原判決105頁25行目から106頁17行目の説示部分)のとおりである。
 したがって、1審原告両名の上記主張は採用できない。
 イ 1審原告両名は、本件請負契約及び本件労働者派遣契約は違法であり、1審被告三菱電機は1審原告両名を直接に雇用しなければできないような方法で働かせて第三者労働力の適正利用義務に違反したものであるから、使用者責任の分離等の法的利益を享受できず、また、1審被告三菱電機の1審原告両名に対する労務指揮権は、本件請負契約や本件労働者派遣契約に基づくものではなく原始取得したと考えるほかないから、1審原告両名と1審被告三菱電機との間には、黙示の労働契約が成立している旨主張する。
 しかし、本件請負契約や本件労働者派遣契約が、偽装請負や、1審原告両名が訴外コラボレートに採用された当時の派遣禁止業務の定め及び派遣期間の制限に抵触していたことをもって、当然に無効となるものではないし、その点を措くとしても、1審原告両名と1審被告三菱電機との間に黙示の労働契約が成立しているか否かは、具体的には、1審被告派遣会社らが名目的な存在にすぎず、1審被告三菱電機が、1審原告両名の採用や解雇、賃金その他の雇用条件の決定、職場配置を含む具体的な就業態様の決定、懲戒等を事実上行っていることなど、1審原告両名の人事労務管理等を、1審被告三菱電機が事実上支配しているといえるような特段の事情があるか否かによって判断すべきものであることは、既に説示したとおりであり、1審被告三菱電機の作業上の指揮命令権の根拠いかんによって判断されるべきものではないから、1審原告両名の上記主張は採用できない。〔中略〕
 4 争点(2)(1審原告らと1審被告三菱電機との黙示の雇用契約の成否(その2・労働者派遣法40条の4に基づくもの))について
 (1) 次の(2)で原判決を補正し、(3)で1審原告両名の当審における主張に対する判断を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」3(原判決106頁18行目から107頁6行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 (2) 原判決の補正
 原判決106頁25行目冒頭から26行目の「そのことのみで」までを、次のとおり改める。
 「労働者派遣法40条の4に基づく直接雇用申込義務は、派遣元事業主から、抵触日の前日までに、厚生労働省令で定める方法により、当該抵触日以降継続して労働者派遣を行わない旨の通知を受けた場合に生じるところ、1審被告三菱電機が、1審被告派遣会社らから上記通知を受けたと認めるに足りる証拠はないから、1審原告らの主張は前提を欠くものである。また、上記義務は、抵触日の前日までに当該派遣労働者であって当該派遣先に雇用されることを希望する者に対して雇用契約の申込みを行うべき公法上の義務にすぎないから、1審原告らの就業を継続させたことのみをもって」
 (3) 1審原告両名の当審における主張に対する判断1審原告両名は、1審被告三菱電機は、派遣可能期間を経過し、労働者派遣法40条の4に基づく直接雇用申込義務を負った状態で1審原告両名に対し、指揮命令を継続していたのであるから、これを直接雇用の申込みの意思表示と評価することができるし、他方、1審原告両名においても、派遣可能期間経過後、派遣先の指揮命令に従い労務の提供を継続することは、上記申込みに対する承諾の意思表示であると解することができるから、1審原告両名と1審被告三菱電機との間に黙示の労働契約が成立した旨主張する。
 しかし、1審被告三菱電機は、1審被告派遣会社らから、抵触日以降継続して労働者派遣を行わない旨の通知を受けておらず、直接雇用義務を負わないことは前記のとおりであり、1審原告両名の上記主張は前提を欠くものであって採用できない。」
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 6 争点(4)(1審被告らによる共同不法行為の成否(その1・不当解雇))のうち、1審被告三菱電機の不法行為の成否について
 (1) 前記の前提となる事実及び認定事実によれば、1審原告らは、1審被告派遣会社らとの間の派遣労働契約に基づき、1審被告派遣会社らと1審被告三菱電機間の各労働者派遣基本契約及びこれに基づく各労働者派遣個別契約に従って1審被告三菱電機名古屋製作所に派遣されて、1審被告三菱電機の指揮命令の下で就業していたものであるが、1審被告三菱電機が、平成20年12月初め、1審被告派遣会社らに対し、上記労働者派遣個別契約につき中途解約(1審原告C及び1審原告Aにつき)又は更新拒絶(1審原告Bにつき)の通告をし(以下、この中途解約と更新拒絶を合わせて「本件中途解約等」という。)、これを受けた1審被告Gファクトリーは、1審原告Cに対し、同1審原告との間の派遣労働契約による雇用期間が平成21年4月30日までであるにもかかわらず、同年2月19日をもって解雇し、1審被告ヒューマントラストは、1審原告Bに対し、平成20年12月19日、同1審原告との間の派遣労働契約による雇用期間が平成21年3月末日までであるにもかかわらず、同年1月23日をもって早期退職となる旨通告し、その後の話合いにより、同1審原告は同月31日をもって合意退職し、インテリジェンスは、1審原告Aに対し、同1審原告との間の派遣労働契約による雇用期間が平成21年2月28日までであるにもかかわらず、同年1月9日をもって解雇したものである。
 そして、前記の前提となる事実及び認定事実に証拠(書証略)及び弁論の全趣旨を総合すれば、1審原告らと1審被告派遣会社ら間の上記派遣労働契約は、いずれも、1審被告三菱電機名古屋製作所を就業場所とし、雇用期間を数か月とする雇用契約であり、これが上記の解雇又は合意退職の日まで繰り返し更新されていたこと、1審被告三菱電機も、1審原告らと1審被告派遣会社ら間の派遣労働契約が短期の雇用期間を定めたものであることは知っていたことが認められる。〔中略〕
 そうすると、1審被告三菱電機による上記中途解約が、平成20年9月に発生したいわゆるリーマンショックの影響により、1審原告Aの就業していた職場において平成21年1月以降大幅な生産調整を行う必要があって行われたものであり、相当の必要があったことや、当時、リーマンショックによる全国的な不況で各企業において多数の派遣労働者の解雇が行われている状況があって、同1審被告において新たな派遣先のあっせん等が容易でなかった事情があったことを考慮し、また、派遣労働者である同1審原告の雇用関係の維持又は安定の法的責任は、派遣元企業であるインテリジェンスが同1審原告との間の派遣労働契約に従ってこれを担うべきものであることを考慮しても、同1審原告を派遣労働者とする本件における派遣労働関係において、同1審被告が、インテリジェンスとの間の労働者派遣個別契約を上記のような時期に上記のような態様において中途解約したことは、その時期や態様などにおいて派遣労働者である同1審原告の雇用の維持又は安定に対する合理的な期待をいたずらに損なうことがないようにするとの信義則上の配慮を欠いたものというほかなく、したがって、同1審被告による上記中途解約は、上記の信義則上の配慮義務に違反するものとして、同1審原告に対する不法行為となるものというべきである。〔中略〕
 7 争点(4)(1審被告らによる共同不法行為の成否(その1・不当解雇))のうち、1審被告派遣会社らの不法行為の成否について〔中略〕
 なるほど、1審被告ヒューマントラストは、1審原告Bに対し、解雇することになる旨の通告をしたものであるが、それは1審被告三菱電機から本件派遣労働契約につき中途解約の申入れがあった旨の理由を示して行ったものである上、同1審原告との話合いの結果、平成21年1月31日をもっての退職に応じたことから合意退職扱いとしたものであり、また、わずかな日数ではあっても雇用契約の期間を延長し、新たな派遣先の紹介については、必ずしも同1審原告が応じ得る派遣先を示す必要まではないというべきであるから、同1審原告の上記主張は採用できない。
 8 争点(5)(1審被告らによる共同不法行為の成否(その2・労働者派遣法40条の4違反に基づくもの)について〔中略〕
前記の認定事実(特に、原判決95頁7行目から13行目まで)によれば、1審被告三菱電機は、請負契約に基づいて受け入れていた訴外コラボレートの従業員については、請負契約に基づくもので、労働者派遣に当たらないと認識していたもので、同従業員について1審被告派遣会社らに移籍の上、労働者派遣契約に切り替えて受入れを継続することとしても、派遣期間については、労働者派遣契約に切り替えた時点から起算すれば足りると判断していたこと、1審原告らにおいても、1審被告三菱電機名古屋製作所における就労期間中において、労働者派遣法による派遣期間が既に徒過しているため直接雇用されなければ就労できない状況下で就労しているとの認識はなかったことが認められるから、1審原告ら主張の1審被告三菱電機の行為をもって不法行為が成立するものということはできない。〔中略〕
 しかし、派遣先企業について同法40条の4に違反する行為があったからといって、当然に派遣労働者に対する不法行為が成立するものとはいえないし、本件における同条に関する1審被告三菱電機の行為が1審原告らに対する不法行為となるものでないことは、原判決説示のとおりであるから、1審原告両名の上記主張は採用できない。