全 情 報

ID番号 : 08929
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 伊藤忠商事事件
争点 : 双極性障害に罹患して休職した総合商社員が休職期間満了前に復職を主張した事案(労働者敗訴)
事案概要 : 総合商社Yに雇用され営業職として勤務していたXが、双極性障害に罹患して休職したものの、休職期間満了前に復職可能な程度にまで回復したなどと主張して、雇用契約上の地位確認を求めるとともに、雇用契約に基づく未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。 東京地裁は、C医師の甲病院診療録、D医師の面談記録、E医師の診療録、M医師の各意見書によっても、Xの休職期間満了時の回復は立証されておらず、Xが休職期間満了までに回復した事実を認めるに足りる客観的証拠は存在せず、かえって、Xの病状(躁状態)は、本件休職期間満了後において悪化した経緯も認められる以上、Xが休職期間満了までに回復したという事実(再抗弁)の立証は尽くされていないといわざるを得ず、またXがYの総合職としての「他職種」において就労できる現実的可能性についても、同様に立証が尽くされていないというほかないとして、請求を棄却した(将来請求部分については、「あらかじめその請求をする必要がある場合」(民事訴訟法135条)に当たるとは認められないから、訴えの利益を欠き不適法であるとして却下)。
参照法条 : 労働基準法9章
民事訴訟法135条
体系項目 : 休職 /休職の終了・満了 /休職の終了・満了
休職 /傷病休職 /傷病休職
裁判年月日 : 2013年1月31日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ワ)40050
裁判結果 : 一部却下、一部棄却
出典 : 労働経済判例速報2185号3頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔休職‐休職の終了・満了‐休職の終了・満了〕
〔休職‐傷病休職‐傷病休職〕
 以上によれば、C医師の甲病院診療録、D医師の面談記録、E医師の診療録、M医師の上記各意見書によっても、原告の休職期間満了時の回復は立証されていないというべきである。
 (4) 以上検討してきた各証拠のほかに、原告が休職期間満了までに回復した事実を認めるに足りる客観的証拠は存在しない。かえって、前提事実(11)のとおり、原告の病状(躁状態)は、本件休職期間満了後において、悪化した経緯も認められる。
 以上によれば、原告が休職期間満了までに回復したという事実(再抗弁)の立証は尽くされていないといわざるを得ない。
 (5) なお、原告は、仮に、休職前の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や異動の実情、難易等を考慮して、配置替え等による現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合には、当該労働者に配置可能な業務を指示すべきであると主張しており、〈1〉原告の職種、業務内容が特定されていないこと、〈2〉原告が他職種において就労できる現実的可能性とその意思の存在という、休職期間満了前の回復の再抗弁とは別系統の再抗弁を主張しているものとも解されるので、原告が他職種において就労できる現実的可能性の立証の有無についても念のため判断する。
 この点、上記(1)のとおり、原告は、被告に総合職として雇用されたものであるし、休職期間中、一貫して総合職としての復職を希望していたものと認められるから、ここにいう「他職種」とは、被告の総合職の中で、原告が休業前に従事していた「生活産業カンパニー木材第二部営業職」以外の職種を指すものと解すべきことになる。そして、上記(1)のとおり、被告の総合職としての業務は、営業職、管理系業務のいずれであっても、社内外の関係者との連携・協力が必要であり、その業務遂行には、対人折衝等の複雑な調整等にも堪え得る程度の精神状態が最低限必要とされることには変わりがない。そうすると、これまで判示したとおり、原告が、休職期間満了までにいまだ治癒・寛解には至っておらず、継続して軽躁状態のままであり、不安定な精神状態にあったと認められる中、本件全証拠をもってしても、原告が、休職期間満了までに、被告の総合職としての複雑な業務の遂行に堪え得る程度の精神状態にまで回復していたとは、およそ認めるに足りないといわざるを得ないから、原告が被告の総合職としての「他職種」において就労できる現実的可能性についても、同様に立証が尽くされていないというほかない。
 また、原告は、再抗弁として、休職の原因とされた疾病が業務に起因するものであると主張するもののようでもあるが、本件全証拠によっても、原告に発病した双極性障害が被告における過重労働等の業務に起因するものであると認めることはできない。したがって、原告の上記主張も採用することができない。加えて、原告は、休職の原因とされた疾病が業務に起因するものであることを前提に、被告が原告につき復職不能と判断して退職扱いとすることは、信義則上、許されないとも主張するが、上記のとおり、双極性障害の発病の業務起因性が認められない以上、前提を欠き失当というほかない。
 3 結論
 以上の次第で、原告の本訴請求のうち、将来請求部分については、「あらかじめその請求をする必要がある場合」(民事訴訟法135条)に当たるとは認められないから、訴えの利益を欠き不適法であって却下すべきであるし、その余の請求については、いずれも理由がないから棄却すべきである。