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ID番号 : 08931
事件名 : 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 : ナルコ事件
争点 : 自動車部品工場の中国人研修生が右示指切断事故の安全配慮義務違反等の損害賠償を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 自動車部品製造・販売会社Yの工場において部品(パイプ)の加工に従事していた中国人外国人研修生Xが、(1)作業中に発生した右示指切断事故の安全配慮義務違反(不法行為)、(2)Yが、Xを研修生として取り扱わず、労働者として深夜労働を含む残業にも従事させ、最低賃金を下回る賃金しか支払わなかったことの不法行為、(3)住居費を給与から控除したことの不法行為、をそれぞれ主張して賠償を求めた事案である。 名古屋地裁は、(1)について、当該機械はプレス機には該当しないものの射出成形機等に該当し、Yには安全を確保するための必要な措置を講じる義務があるのにこれを怠ったこと、また作業手順や注意事項及び事故発生時の対応等について中国語による書面や説明などの安全教育を尽くしていなかったことから、Yの安全配慮義務違反、相当因果関係を認め、後遺障害も認定し、一方Xの過失割合を2割とした。(2)について、YはXを労働者として受け入れ、かつ最低賃金を下回る賃金しか支払わないという意図を有しながら、研修生という名目で受け入れた上、Xに対する研修を全く行わずYの指揮監督下で労務の提供を行わせ、最低賃金を下回る額しか支払わなかったことは不法行為に該当すると認定した。(3)については、Yが徴収した住居費の全額が違法な徴収ではないものの、取扱いは不平等で合理性を欠き、労働基準法3条に反し公序良俗に反するとして支払を命じた。
参照法条 : 民法709条
民法90条
労働基準法3条
労働基準法9条
最低賃金法2条
体系項目 : 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労基法の基本原則(民事) /労働者 /外国人研修生
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
賃金(民事) /割増賃金 /違法な時間外労働と割増賃金
賃金(民事) /最低賃金 /最低賃金
賃金(民事) /賃金の支払い原則 /全額払・相殺
裁判年月日 : 2013年2月7日
裁判所名 : 名古屋地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ワ)7512
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1070号38頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 (1) 争点1(1)(本件事故の原因及び安全配慮義務違反の有無)について〔中略〕
 エ 被告は、原告を外国人研修生として受け入れ、本件工場においてパイプ加工の作業に従事させていたものであるから、原告を上記作業に従事させるにあたって、原告の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っているものと解すべきである。〔中略〕
 そして、上記認定の本件機械を用いたパイプの加工作業の内容によれば、本件機械は労働者の身体の一部をはさむおそれのあるものであると認められるから、被告は、労働安全衛生規則147条1項に従い両手操作式あるいは感応式の安全装置を取り付ける等の必要な措置を講じる義務があったというべきである(同規定は、研修生が作業従事者である場合にも準用するのが相当である。)。
 オ また、上記認定のとおり、Cは、原告が本件機械を使って作業を開始する前に実際に作業を行って作業手順を教えた上、原告に実際に作業を行わせ、教えた通りに作業を行っていることを確認している。しかし、原告は中国人であり、日本語をほとんど理解できず、また、研修生として来日した者であることを考慮すると、作業手順や注意事項及び事故発生時における対応等について、中国語で記載した書面を交付するか、中国語で説明した上、その内容・意味を正確に理解していることを確認するのでなければ、安全教育としては不十分であって、安全配慮義務を尽くしているとはいえないというべきである。
 カ したがって、被告には、安全配慮義務違反があったと認められ、上記認定の本件事故の発生原因を考慮すると、被告の安全配慮義務違反と本件事故との間には相当因果関係があると認められる。〔中略〕
 ウ 後遺障害慰謝料(原告の請求額:430万円)について
 上記のとおり、原告の後遺障害は、後遺障害等級11級に該当するところ、同後遺障害に対する慰謝料は、症状固定後2年以上日本に滞在していたこと、上記認定の中国帰国後の年収予想等の事情を総合考慮すると、200万円とするのが相当である。
 (3) 争点1(3)(原告の過失の有無及び割合)について
 上記認定のとおり、本件事故は、原告が本件機械に右手でパイプを設置した後、右手でスイッチを入れるべきところ、誤って左手でスイッチを入れたことにより発生したと認められる。
 もっとも、上記認定のとおり、被告にも本件機械に設置すべき安全装置を設置せず、また、本件機械の操作に関する安全教育が不十分であったという安全配慮義務違反が認められる。
 被告が安全装置を設置していれば、本件事故の発生は防ぐことができたことを考慮すると、原告の過失割合は2割とするのが相当である。
〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐外国人研修生〕
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔賃金(民事)‐割増賃金‐違法な時間外労働と割増賃金〕
〔賃金(民事)‐最低賃金‐最低賃金〕
 (1) 争点2(1)(被告が原告を研修生として取り扱わず、労働者として従事させたか否か及び不法行為の該当性)について〔中略〕
 以上によれば、被告は、原告を研修生として処遇し、工員として必要な知識・技術を習得させるという意図は全くなく、原告による労務の提供それ自体を目的に原告を研修生という名目で受け入れ、被告の指揮監督の下で原告に対し労務の提供を行わせ、原告に対し支払われた研修手当・残業代金もかかる労務の提供の対価として支払われたものと評価することができる。
 したがって、原告は、研修期間中においても、労働基準法9条所定の労働者に該当すると認められ、また、最低賃金法2条1号所定の労働者にも該当するところ、原告に支払われた残業代金は1時間当たり388.88円であり、原告の研修期間中の愛知県における最低賃金694円(〈証拠略〉)を下回るものである。
 そうすると、結局、被告は、労働者として作業に従事させ、かつ最低賃金を下回る賃金しか支払わないという意図を有しながら、研修生という名目で原告を受け入れた上、原告に対する研修を全く行わず、被告の指揮監督の下で原告に対し労務の提供を行わせ、最低賃金を下回る賃金しか支払わなかったものであるから、このような被告の行為は、原告に対する不法行為に該当するというべきである。
〔賃金(民事)‐賃金の支払い原則‐全額払・相殺〕
 (1) 争点3(1)(住居費を控除したことが不法行為に該当するか否か)について〔中略〕
 以上によると、平成20年4月の時点では、上記計算上の実費よりも原告は約1万円多く徴収されているのに対し、原告より収入の多い日本人入居者(月額2万7000円の者の場合)は約2万1000円の負担を免れ、平成21年3月の時点では、原告は計算上の実費とほぼ同額の住居費を徴収されているものの、原告より収入の多い日本人入居者(月額2万7000円の者の場合)は約1万3000円の負担を免れていることになる。
 そうすると、被告が原告から徴収した住居費の全額が違法な徴収に該当するとはいえないものの、上記のような取扱は不平等なものであって合理性を欠き、労働基準法3条に反するというべきであるから、合理性を欠く部分は公序良俗に反するというべきである。
 もっとも、上記算定の実費は計算上のものであること及び入居者の人数に変動があることも考慮すると、原告が月額3万8000円を支払っていた平成20年3月から平成21年2月までの間は月額2万円を超える部分(合計21万6000円)が、月額2万3000円を支払っていた平成21年3月から同年12月までの間は月額1万3000円を超える部分(合計10万円)が無効となるとするのが相当である。
 なお、原告は、月額1万7000円を住居費として支払っている日本人入居者を基準としているが、特殊な例と考えられるのでこれを基準とするのは相当でないというべきである。