全 情 報

ID番号 : 08943
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : マツダ事件
争点 : 派遣労働者が、派遣先自動車製造会社に派遣無効を理由に正社員としての地位確認等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 派遣労働者として自動車製造業を営むY社防府工場の各職場に派遣されて自動車製造業務に従事していたXらが、派遣可能期間を超えてYが役務の提供を受けていた実態などを根拠に派遣労働契約は無効であり、XY間には黙示の労働契約が成立していたとしてYの正社員としての地位確認、賃金の支払、損害賠償を請求した事案である。 山口地裁は、まずXらと派遣元との間の派遣労働契約について、Xらへのサポート社員制度の説明のあり方(いったんYの社員になってからまた戻ってきてもらう等)や運用実態などに照らすと、Xらのうちサポート社員制度導入を経た者らの派遣は法40条の2に違反するものと認定し、また、Yと同人らとは事実上使用従属関係が認められ、派遣は運用の結果として無効であると解すべき特段の事情があり公序良俗に反する無効な契約であると認めた。次に、Yは直接指揮、命令監督して作業せしめ、その就業条件の決定、賃金の決定等を実質的に行い、Xらがこれに対応して上記職場での労務提供をしていたということができ、期間の定めのない黙示の労働契約の成立が認められるとして、Yの社員規定にのっとり賃金額を算定し支払を命じた(雇止めされたサポート社員についても同様の契約が成立するとして就業規則にかかわらず平均給与額の支払を命じた)。ただし、不法行為(期待権侵害)については、そもそもそのような権利は生じないとし、将来請求についても訴えの利益がないとして却下した。
参照法条 : 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律40条の2
職業安定法4条
労働契約法6条
民法90条
民法709条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事) /労働者 /派遣労働者・社外工
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
配転・出向・転籍・派遣 /派遣 /派遣
裁判年月日 : 2013年3月13日
裁判所名 : 山口地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ワ)197
裁判結果 : 一部認容、一部却下、一部棄却
出典 : 労働判例1070号6頁/労働経済判例速報2182号3頁
審級関係 :
評釈論文 : 大賀一慶・季刊労働者の権利299号77~83頁2013年4月山本陽大・日本労働法学会誌122号167~176頁2013年10月塩見卓也、和田肇・名古屋大学法政論集251号395~416頁2013年9月中山達夫・労働法令通信2326号24~26頁2013年9月8日河合塁・労働法学研究会報64巻22号24~29頁2013年11月15日水町勇一郎・ジュリスト1461号119~122頁2013年12月
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐派遣労働者・社外工〕
〔配転・出向・転籍・派遣‐派遣‐派遣〕
 3 被告と原告らとの間に黙示の労働契約が認められるか否か〔中略〕
 エ 以上によれば、被告が、原告X9及び同X13を除く原告らを直接指揮、命令監督して防府工場の各職場において作業せしめ、その就業条件の決定、賃金の決定等を実質的に行い、派遣労働者がこれに対応して上記職場での労務提供をしていたということができる。そうすると、原告X9及び同X13を除く原告らと被告との間には黙示の労働契約の成立が認められるというべきである。
 オ 他方、原告X9及び同X13については、前記認定のとおり、同人らと派遣元との間の派遣労働契約を無効と解すべき特段の事情は認められず、そうである以上、被告と派遣元との間の原告X9及び同X13にかかる労働者派遣契約が違法な労働者供給契約に該当する余地はなく、有効である。
 そうすると、原告X9及び同X13が被告の指揮命令下にあったといっても、それは労働者派遣である以上、当然のことであって、このことをもって被告と原告X9及び同X13との間に黙示の労働契約が成立していたとは認められず、他にこれを認めるに足りる事情も存しない。
 (2) 労働契約の内容
 ア 契約期間の定めを含む労働条件が当事者間の交渉、合意によって決せられるべき事柄であるとしても、派遣労働者・サポート社員・派遣労働者という循環を繰り返す中で被告が原告X9及び同X13を除く原告ら派遣労働者から労務の提供を受けていたという事実関係、被告が平成18年9月以降、ランク制度及びパフォーマンス評価制度を導入して派遣労働者の定着化を目指したことから窺われる被告の長期雇用の意図からすれば、被告・原告X9及び同X13を除く原告ら間には期間の定めのない労働契約が成立するというべきである。
 イ そして、ランク制度の運用上、降格が予定されていなかったこと(乙A70)、「『生産サポート社員』(第11期)募集のお知らせ」(甲A6)によれば、サポート社員の給与が派遣労働者時代に支払われていた給与水準と同等とされていることによれば、その賃金は、原告X9及び同X13を除く原告らに支払われていた平均賃金とすることの黙示の合意が成立していたというべきであり、弁論の全趣旨によれば、原告らの平均賃金は別紙1ないし8、10ないし12、14及び15記載の「平均給与額(認定分)」のとおりと認められる。
 ウ そうすると、被告は、原告X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X6、同X7、同X8、同X10、同X11、同X12、同X14及び同X15に対し、それぞれ別紙1ないし8、10ないし12、14及び15の「未払賃金額(認定分)」欄記載のとおり、上記原告らが被告での就業を終えた月の翌月(なお、原告らが被告での就業を終えた日付については、別紙の勤務期間欄記載のとおりである。)から平成21年4月までの確定未払賃金の支払義務を負うとともに、同年5月から本判決確定の日まで、毎月25日限り、それぞれ別紙1ないし8、10ないし12、14及び15の「平均給与額(認定分)」欄記載の金員の支払義務を負うというべきである。
 4 サポート社員の雇止めについて
 原告X3、同X4、同X5、同X6、同X11及び同X14については、サポート期間満了後、派遣元との間で派遣労働契約を締結できず、再び派遣労働者として被告において就業することができなかったものであるが、前記のとおりサポート社員制度は単にクーリング期間を満たすための方便として導入されたものであること、上記原告らと被告との間には前記3のとおりの黙示の労働契約が成立していると認められることに照らせば、本件サポート契約やサポート社員に係る就業規則にかかわらず、上記原告らと被告の間には、賃金を平均給与額とする期間の定めのない労働契約が成立していたと認めるのが相当である。
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 5 不法行為(期待権侵害)について
 (1) 原告X9及び同X13を除く原告らについて
 前記認定説示のとおり、原告らが被告に対し労働契約上の権利を有していると認められることに照らせば、期待権侵害を理由とする不法行為が成立する余地はない。
 (2) 原告X9及び同X13について
 ア 原告X9は、人証請求もなされなかったばかりか陳述書も提出しておらず、本件全証拠によっても、同人が雇用継続に対する期待を有していたとは認められない(原告X9は、サポート社員も経験していない。)。
 イ 原告X13は、自己の雇用形態が労働者派遣であることを認識して派遣元の日総工産との間で派遣労働契約を締結し、派遣労働者として防府工場で働いていたものであり、サポート社員も経験していないことに照らせば、同人が雇用継続に対する期待を有していたとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠も存在しない。
 派遣先である被告に労働者派遣法40条の2違反の事実が認められたとしても、このことのみを理由に個々の派遣労働者において派遣先である被告に対する継続雇用の期待が生じることもないというべきである。
 ウ したがって、原告X9及び同X13に対し、期待権侵害を理由とする不法行為の成立は認められない。