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ID番号 : 08953
事件名 : 賃金等請求事件
いわゆる事件名 : 北港観光バス(賃金減額)事件
争点 : バス会社の運転手(時給制)が合理性な理由なく仕事を減らされたとして差額賃金等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 旅客自動車運送事業会社Yのバス運転手Xが、少なくとも賃金月額30万円を下らない金額となるよう仕事を与える合意があったのに、Yの意に反する組合活動を行ったことから、合理性なく仕事を減らされたとして債務不履行及び不法行為に基づく差額賃金、慰謝料と、時間外労働に対する割増賃金等の支払を求めた事案である。 大阪地裁は、まず債務不履行について、XY間で月収が30万円を下回らないように仕事を与えるとの合意が成立していた事実を認めるに足りる証拠はなく、したがって、そのように仕事を与えることが労働契約の内容となっていたとは認められないから、債務不履行には当たらないとしたが、不法行為については、給与が時給制であり、労働時間の多寡がXの収入の多寡に直結するという事情の下では、合理的な理由なく特定の従業員の業務の割り当てを減らすことは不法行為に当たり得るとした。その上で、Xの勤務態度からXへの配車を減らすという対応に理由がないとはいえないが、このように大幅な減車を長期間続けることには合理的な理由がなく、不法行為に当たるとして、差額賃金及び弁護士費用を認めた(慰謝料については、賃金が支払われることによってXの精神的損害も慰謝されるとした)。また、割増賃金について、「無苦情・無事故手当」及び「職務手当」は基礎賃金に含まれるとし、付加金についても支払を命じた。
参照法条 : 民法415条
民法709条
労働基準法37条
労働基準法114条
体系項目 : 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
賃金(民事) /出来高払いの保障給・歩合給 /出来高払いの保障給・歩合給
賃金(民事) /割増賃金 /割増賃金の算定基礎・各種手当
雑則(民事) /付加金 /付加金
裁判年月日 : 2013年4月19日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23(ワ)860
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1076号37頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔賃金(民事)‐出来高払いの保障給・歩合給‐出来高払いの保障給・歩合給〕
 第3 当裁判所の判断
 1 債務不履行又は不法行為の成否〔中略〕
 (2) 債務不履行の成否
 ア 原告は、被告との間で、原告の月収が30万円を下回らないように仕事を与えるとの合意が成立していたと主張しているが、原告の供述によっても、戊村所長から被告への入社を誘われた際に30万円ぐらいは渡せるだろうと言われたというにすぎず(〈証拠略〉、原告本人)、かかる発言が、月収が変動し得ることを前提とした上で見込み額を述べたのではなく、月収が30万円を下回らないことを確約したものと断ずることはできない。また、原告が署名した業務請負契約書(〈証拠略〉)及び雇用契約書(〈証拠略〉)では、原告の賃金は時給制とし、かつ、勤務時間は会社指定時間、休日は会社指定日とすることが定められており、一定の月収を保証する趣旨の規定もないから、一定の月収を保証することが、原告と被告との間の労働契約の内容となっているとの事実を認めるに足りる証拠は認め難い。〔中略〕
 ウ 以上によれば、原告と被告との間に原告の月収が30万円を下回らないように仕事を与えるとの合意が成立していた事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の月収が30万円を下回らないように仕事を与えることが、原告と被告との間の労働契約の内容となっていたとは認められないから、被告が原告に対する配車を減らした結果、原告の月収が30万円を下回ったとしても、そのことが債務不履行に当たるということはできない。
 (3) 不法行為の成否
 ア 原告と被告との間の労働契約においては、原告の労働時間は予め定められていないから、一般的には、原告に対し一定時間以上の労働を命じることが被告の義務であるということはできない。しかしながら、被告のバス従業員の給与は時給制であり、労働時間の多寡が各従業員の収入の多寡に直結するという本件事情の下においては、被告が合理的な理由なく特定の従業員の業務の割り当てを減らすことによってその労働時間を削減することは、不法行為に当たり得ると解するのが相当である。
 イ A1営業所全体の業務量が減少したとの主張について〔中略〕
 (ウ) 以上によれば、平成22年7月以降に原告に対する配車及び原告の労働時間が減少したのは、D社バスの所管をA1営業所からB1営業所に移したことにより、A1営業所全体の労働時間が減少したためである、との被告の主張は採用することができない。
 ウ 原告の勤務態度が原因であるとの主張について〔中略〕
 (イ) しかしながら、原告の月収は平成22年6月までは概ね30万円以上であったにもかかわらず、平成22年7月は25万円、平成22年8月は20万1000円、平成22年9月から平成24年3月までいずれも20万円を下回っており、原告の勤務態度に問題があったとしても、かかる大幅な配車の減少を長期にわたり続けることに合理的な理由があるかは疑問である。〔中略〕
 オ 以上によれば、平成22年7月以降、原告に対する配車を減らしたことについて合理的な理由があるとは認められない。したがって、平成22年7月以降、被告が原告に対する配車を減らしたことは、不法行為に当たると認めるのが相当である。
〔賃金(民事)‐割増賃金‐割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 2 割増賃金請求権の有無及びその額
 (1) 基礎賃金
 原告と被告との間の労働契約においては、基本給のほかに、平成22年3月20日までの契約では無苦情・無事故手当を、平成22年3月21日以降の契約では職務手当を支払うことが定められているところ、被告は、無苦情・無事故手当、及び職務手当は、いずれも時間外労働に対する手当であるから、基礎賃金には含まれないと主張している。
 ある手当が時間外労働に対する手当として基礎賃金から除外されるか否かは、名称の如何を問わず、実質的に判断されるべきであると解される。無苦情・無事故手当及び職務手当は、実際に時間外業務を行ったか否かに関わらず支給されること、バス乗務を行った場合にのみ支給され、側乗業務、下車勤務を行った場合には支払われないことからすると、バス乗務という責任ある専門的な職務に従事することの対価として支給される手当であって、時間外労働の対価としての実質を有しないものと認めるのが相当である。
 以上によれば、基本給、無苦情・無事故手当及び職務手当は、基礎賃金に含まれる。したがって、基礎賃金は、別紙4「割増賃金未払い計算表」の「所定内時間単価」欄記載のとおりであると認めることができる。
〔雑則(民事)‐付加金‐付加金〕
 3 付加金請求権の成否
 本件訴訟の一切の事情を考慮しても、付加金の支払を否定すべき事情は窺われないから、被告に対し、47万5825円の付加金の支払を命ずるのが相当である。