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ID番号 : 08954
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : ブルーム・バーグ・エル・ピー事件
争点 : 米国金融情報通信社に即戦力にならないとして解雇された記者が地位確認と賃金を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 米国金融情報通信社Yに記者として中途採用されたXが、PIP(Performance Improvement Plan)と称する業績改善プランを3回実施した後に即戦力として致命的であり改善の見込みもないとして解雇されたことにつき、解雇が無効であるとして、地位の確認と解雇以降の賃金の支払を求めた事案の控訴審判決である。 第一審の東京地裁は、解雇理由とされた具体的な勤務能力の低下事由について客観的合理性がないとしてXの請求をいずれも認容。Yが控訴。 第二審の東京高裁は、国際企業といわゆる一般的な日本企業との雇用形態には差異があり、解雇事由の検討に当たっては雇用文化の多様性という観点が不可欠であるとするYの主張に対し、現実には、Yはどのように異なるかについて何ら具体的に証明も主張もしていないから、結局単なる一般論にすぎず、個別具体的な事件における解雇事由の判断に影響を与えるようなものではないとした。また、Yによる主観的評価以上に、客観的にXの職務能力の低下が労働契約を継続することができないほどに重大なものであることを認めるに足りる証拠はないとして、控訴を棄却した。
参照法条 : 労働基準法9章
労働契約法16条
体系項目 : 賃金(民事) /賃金請求権の発生 /就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
解雇(民事) /解雇事由 /従業員としての適性・適格性
裁判年月日 : 2013年4月24日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成24(ネ)6853
裁判結果 : 控訴棄却
出典 : 労働判例1074号75頁
審級関係 : 第一審/東京地平成24.10.5/平成23年(ワ)第8573号
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐解雇事由‐勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇(民事)‐解雇事由‐従業員としての適性・適格性〕
 1 当裁判所も、被控訴人の請求はいずれも理由があるものと判断する。その理由は、次のように、補正し、控訴人の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由の第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
 (1) 原判決の補正
 ア 原判決22頁16行目及び18行目の各「勤務能力ないし適格性」をいずれも「職務能力」に改める。
 イ 原判決24頁15行目から16行目までの「認められない上、」を次のように改める。
 「認められない。そうすると、控訴人が被控訴人に対して行動予定に関する報告を求めたのも、上記のアクションプラン及びPIPにおいて、被控訴人の職務能力を把握するためにされたものにすぎないことがうかがわれるのであって、控訴人において、一般的に、行動予定に関する報告が記者の服務規律として重要であるとされていたとまでいうことはできない。
 かえって、日本語スピードチームにおいては、AGENDAと呼ばれるスケジュール管理システムがあり、同チームのメンバーが共有フォルダに各自の予定を書き込めば、上司であるBを含めて誰でもこれを閲覧することができ、被控訴人も予定を書き込んでいたことが認められる(証人B、被控訴人本人)。なお、この点について、証人Bは、被控訴人がすべての予定を書き込んでいなかった旨の供述をするが、その供述内容は極めて曖昧である上、被控訴人からの要望があったにもかかわらず、控訴人が上記AGENDAに関する証拠を提出していないことに照らすと、これを信用することはできない。さらに、」
 ウ 原判決25頁5行目の「認められるが、」を次のように改める。
 「認められる。さらに、平成18年の勤務評価における匿名という条件でしか使うことのできない情報源の開拓に関するTLと被控訴人との意見の相違(前記第2の1の(2)のウ)や、GAチームに対する被控訴人の評価(被控訴人の陳述書(甲22)には、同チームが、英語ニュース担当者の干渉を受けずに日本人記者が日本人記者の価値観とニュース判断で、自由に前向きに取材できるチームであったと記載する部分がある。)等からすれば、被控訴人は、控訴人における取材方法が一般的な日本の報道機関のそれと異なることに不満を抱いていたこともうかがわれるところである。
 しかし、」
 エ 原判決26頁21行目の「スピードが遅さ」を「スピードの遅さ」に改める。
 オ 原判決27頁24行目の「原告以外の14名の」から原判決28頁1行目の「評価することはできず」までを次のように改める。
 「被控訴人からの要望があったにもかかわらず、控訴人が被控訴人以外の14名の記者の氏名を明らかにしないため、これらの記者の比較対象としての適格性、計上した記事本数の正確性、選定記事の妥当性等について被控訴人が反証し得ないという問題があることから、同書証を信用することはできず」
 カ 原判決28頁3行目末尾の次に次のように加える。
 「かえって、甲46号証から48号証(被控訴人、C記者及びD記者が平成21年9月から10月までの間に作成した全記事、独自記事等の各本数を記載した表)によれば、被控訴人の執筆した記事の本数が同僚と遜色がないことがうかがわれる。」〔中略〕
 しかし、先に引用した原判決の事実及び理由の第3の1から4までで判示したところによれば、本件解雇は、控訴人主張に係る各解雇事由を個別に検討しても、客観的合理性があるとはいえないばかりか、これらを総合的に検討しても、客観的合理性があるとはいえないと解するのが相当である。確かに、控訴人主張に係る各解雇事由、すなわち、所在不明、協力関係不構築、執筆スピードの遅さ、記事本数の少なさ及び記事内容の質の低さのそれぞれについて、控訴人の使用者としての主観的評価として、被控訴人の職務能力が不十分であるとしていたことは認められる。しかし、被控訴人は、アクションプラン及び3回に及ぶPIPにおいて具体的な数値によって設定された課題をほぼ達成している上、先に引用した原判決の事実及び理由の第3の3の(1)及び4の(2)で判示したように、控訴人が、客観的に被控訴人に求められる職務能力を立証するために提出した証拠は適切なものであったとは言い難いこと等からすれば、控訴人による主観的評価以上に、客観的に認められる被控訴人に求められている職務能力に照らして、被控訴人の職務能力の低下が、被控訴人と控訴人との間の労働契約を継続することができないほどに重大なものであることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、控訴人の上記主張を踏まえて検討しても、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠くものとして無効である。