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ID番号 08982
事件名 建物使用不許可処分取消等請求事件(49号、75号)、建物明渡請求事件(4904号)、使用不許可処分取消等請求事件(59号)
いわゆる事件名 大阪市(行政財産等使用不許可処分取消等)請求事件
争点 これまで使用してきた組合事務所の使用を不許可とした市長に対し損害賠償等を求めた事案(労組一部勝訴)
事案概要 (1) 被告大阪市(Y)の職員が加入する労働組合、職員団体又はその連合体である原告(X)らが、Yの市長に対し、3回にわたり、市庁舎の一部を組合事務所として利用するための目的外使用許可を申請したところ、いずれも不許可処分を受けたことに対し、損害賠償等と及びこれに対する各不許可処分の日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、平成26年度の不許可処分について、その取消しを求めたもの。
(2) 大阪地裁は、市長の処分を取り消し、損害賠償の一部を認容した。
なお、本件はID08983事件と同様の内容となっているが、争点の大阪市の指令番号が異なり、かつ、Yによる事務室部分明渡しの請求及びXによる義務付けの請求が加わっている。
参照法条 日本国憲法28条
国家賠償法1条
行政事件訴訟法3条
行政事件訴訟法5条
行政事件訴訟法37条の3
地方自治法238条の4
労働組合法7条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2014年9月10日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成24年(行ウ)49号/平成24年(ワ)4904号/平成25年(行ウ)75号/平成26年(行ウ)59号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 判例時報2261号128頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 争点(1)(本件各不許可処分の違法性)について
地方公共団体の庁舎は、地方自治法238条4項にいう行政財産であり、当該地方公共団体の公用に供することを目的とするものである。したがって、これを目的外に使用するためには同法238条の4第7項に基づく許可が必要であり、目的外使用を許可するか否かは、原則として、施設管理者の裁量に委ねられているものと解するのが相当である。すなわち、当該地方公共団体の庁舎の用途又は目的を妨げる場合には使用を許可することができないことは明らかであるが、そのような場合ではないからといって当然に許可しなくてはならないものではなく、行政財産である庁舎の目的及び用途と目的外使用の目的、態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできるものである。そして、施設管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時若しくは期間、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性等許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱・濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱・濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である(最高裁平成18年2月7日第三小法廷判決・民集60巻2号401頁参照)。
しかし、労働組合等にとって使用の必要性が大きいからといって、施設管理者において労働組合等の活動のためにする庁舎の使用を受忍し、許容しなければならない義務を負うものではないし、使用を許さないことが庁舎につき施設管理者が有する裁量権の逸脱・濫用であると認められるような場合を除いては、その使用不許可が違法となるものでもない。また、従前、組合事務所として利用するための1年間の使用許可申請を繰り返し許可してきたとしても、そのことから直ちに、従前と異なる取扱いをすることが裁量権の逸脱・濫用となるものではない。
従前と異なる取扱いをした不許可処分の違法性を判断するにあたっては、施設管理者側の庁舎使用の必要性がどの程度増大したか(そもそも組合事務所として使用をしていた労働組合等に退去を求めざるを得ない程度に庁舎を公用に供する必要性が生じた場合には、前述したとおり、当該地方公共団体の庁舎の用途又は目的を妨げる場合に該当するとして使用を許可することができない。)、職員の団結権等に及ぼす支障の有無・程度、施設管理者側の団結権等を侵害する意図の有無等を総合考慮して、施設管理者が有する裁量権の逸脱・濫用の有無を判断すべきである。
平成24年度不許可処分は、重視すべきでない考慮要素(行政事務スペースとしての使用の必要性や組合事務所として庁舎の使用を許可することによる弊害のおそれ)を重視するなど、考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており、他方、当然考慮すべき事項(労働組合等の団結権等に与える影響)を十分考慮しておらず、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものといえ、市長の裁量権を逸脱・濫用したもので、その余の点を判断するまでもなく違法というべきである。
平成25年度及び平成26年度各不許可処分も、重視すべきでない考慮要素(行政事務スペースとしての使用の必要性)を重視するなど、考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており、他方、当然考慮すべき事項(職員の団結権等に与える影響)を十分考慮しておらず、その結果、いずれも社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものといえるから、市長の裁量権を逸脱・濫用するものであり、その余の点を判断するまでもなく違法といわなければならない。
争点(2)(Xらの損害の有無等)について
本件各不許可処分は、いずれも違法であるから、市長は、平成24年度及び平成25年度各不許可処分を行うについて、市長職務代理者大阪副市長は、平成26年度不許可処分を行うについて、Xらに対し、故意又は過失により違法に損害を加えたものといえる。
争点(3)(平成26年度不許可処分に係る義務付けの訴えの適否)について
平成26年度不許可処分に係る義務付けの訴えは、いわゆる申請型義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条6項2号)に該当するところ、前記1に判示したとおり、同不許可処分は、取り消されるべきものであるから、上記義務付けの訴えは、いずれも適法である(同法37条の3第1項2号)。
争点(4)(本件事務室部分の明渡し請求が権利の濫用か否か)について
Yは、Xらが、平成24年4月1日から、本件事務室部分を占有権原なく占有していることから、Xらに対し、所有権に基づき、本件事務室部分の明渡しを求めている。しかしながら、前記に判示したとおり、Xらに対し、本件事務室部分について、平成26年4月1日から平成27年3月31日までの使用を許可する旨の処分をすることを義務付けられているYが、Xらに対して本件事務室部分の明渡しを求めることは、権利の濫用として許されないものといわなければならない。