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ID番号 09022
事件名 地位確認等事件
いわゆる事件名 NHK神戸放送局(地域スタッフ)事件
争点 放送受信料の集金等を行う者の労働者性と契約期間途中の解雇の効力が争われた事案(原告一部勝訴)
事案概要 (1) 放送受信料の集金及び受信契約締結等を内容とする業務を行っていたXが、不当解雇を理由に、Yである日本放送協会に対して、労働契約上の地位の確認、未払賃金、不法行為による慰謝料を請求し提訴したもの。
(2) 神戸地裁は、Xの労働者性を認め、Yの解約を無効と判断したうえ、契約終了期間までの請求を認めた。
参照法条 労働契約法17条
労働契約法18条
労働契約法19条
民法627条
商法30条
商法505条
体系項目 労基法の基本原則(民事)/労働者/労働者の概念
解雇(民事)/解雇権の濫用
解雇(民事)/解雇事由/勤務成績不良・勤務態度
裁判年月日 2014年6月5日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 平成24年(ワ)1560号
裁判結果 一部認容、一部棄却、一部却下
出典 労働判例1098号5頁
審級関係 控訴
評釈論文 大内伸哉・ジュリスト1478号2~3頁2015年4月
淺野高宏・季刊労働法249号200~201頁2015年6月
小俣勝治・労働法学研究会報66巻14号28~33頁2015年7月15日
土田道夫・同志社法学67巻2号49~108頁2015年6月
判決理由 争点(1)「本件契約の法的性質(原告の労働者性)」について
Yは、放送法に基づき設立された特殊法人であり、公共放送として政策上広告放送が禁止されている関係から、受信料によってその業務運営がまかなわれていることからすれば、放送サービスの利益を受けている国民から公平に受信料を徴収するために、全国的に統一された業務内容及び報酬制度による委託制度(スタッフ制度)を設定、実施すること自体は、一定の合理性を有するといえる。
しかしながら、Yの委託制度(スタッフ制度)がYの事業運営上合理的であるとしても、このことをもって直ちにXらスタッフがYの指揮命令に服していることを否定することはできず、飽くまで契約両当事者間の関係に着目して、実質的に使用従属関係(指揮命令)の有無を判断すべきであると解するのが相当である。
①スタッフの業務の内容はYが一方的に決定しており(仕事の依頼への諾否の自由がない)、②勤務場所(受持区域)もYが一方的に指定し、事実上スタッフには交渉の余地がないこと(場所的拘束性)、③勤務状況についても、稼働日などについて事前に指示があり、スタッフは事実上それに従った業務計画表を提出し、定期的に報告することになっていたこと(業務遂行上の指揮監督)、④Yは、ナビタンを使用した報告により、スタッフの毎日の稼働状況を把握でき、十分ではないと認めたスタッフには細かく「助言指導」していたこと(業務遂行上の指揮監督・時間的拘束)、⑤これらの「助言指導」は、「特別指導」制度の存在により、事実上、指揮命令としての効力を有していたと認められること(業務遂行上の指揮監督)、⑥事務費は、詳細に取り決められており、基本給的部分と評価し得る部分及び賞与といえる制度も存在していたことに加えて退職金といえるせん別金ほかの給付制度も充実していることなどからすれば、Yから支給される金員には労務対償性が認められるというべきこと(報酬の労務対償性、組織への結びつけ)、⑦事実上第三者への再委託は困難であったこと(再委託の自由がない)、⑧事実上兼業も困難であったし、これが許されていたとしても、本件契約の法的性質を判断する上で大きな要素となるものではないこと(専属性)、⑨事業主であることと整合しない事務機器等の交付が行われていたこと(機械・器具の負担等)などの事情が認められるところ、当裁判所は、これらの事情を基礎として総合的に評価すれば、本件契約は労働契約的性質を有するものと解するのが相当と考える。
本件契約は労働契約的性質を有するものというべきであるから、Xは、労働基準法上の労働者と認めるのが相当というべきであり、したがって労働契約法上も労働者と認めるのが相当とである。
争点(2)「本件解約は労働契約法17条1項に反して無効か」について
本件契約は期間の定めのある労働契約であるから、やむを得ない事由がある場合でない限り、期間途中での解雇は許されない(労働契約法17条1項)。
Yの行った本件解約は、労働契約法17条1項に規定する「やむを得ない事由」に該当しないばかりか、Y自身の定めた手続要件を満たしていないから、無効といわざるを得ない。
争点(3)「Xに認められるべき未払賃金及び慰謝料の有無並びに具体的金額」について
XY間において締結された最終の本件契約は、平成25年3月31日までのものであるところ、Xは、事案の概要で述べたように、本件において労契法18条及び19条に係る主張をしていない。したがって、本件契約は、同日の経過をもって終了しているといわざるを得ないから、Xの請求は、同年3月分(同年4月末日支払)までは理由があるが、同年4月分以降は理由がない。