全 情 報

ID番号 09040
事件名 遺族補償給付不支給処分等取消請求事件
いわゆる事件名 国・秋田労基署長(ネッツトヨタ秋田)事件
争点 精神疾患に罹患した後の自殺の業務起因性が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) A社(ネッツトヨタ秋田株式会社)に勤務していた一郎の妻である原告Xが、一郎の自殺がA社における過重な業務負担等に起因するものであると主張し、労災保険法に基づく遺族補償年金及び葬祭料を不支給とした平成23年8月5日付けの秋田労働基準監督署長の処分の取消しを求め被告Y(国)に対して提訴したもの。
(2) 秋田地裁は、一郎の自殺について業務起因性を認め、Xの請求を認容した。
参照法条 労働者災害補償保険法16条
労働者災害補償保険法17条
体系項目 労災補償・労災保険/業務上・外認定/業務起因性
裁判年月日 2015年3月6日
裁判所名 秋田地
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(行ウ)第3号
裁判結果 認容
出典 労働判例1119号35頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険/業務上・外認定/業務起因性〕
 (2) 本件自殺の業務起因性について
  ア 本件精神障害発病の業務起因性について
 (ア) 本件精神障害発病について
  (中略)本件自殺の業務起因性を判断する上では、一郎が平成22年1月頃にICD-10のF3に分類される精神障害である中等症うつ病エピソードを発病したとの判断を前提とすべきである。
 (イ) 業務による心理的負荷について
 発病(平成22年1月)前6か月間の一郎の時間外労働時間数は、前記認定事実(1)ア(エ)のとおり、毎月約97時間から139時間であり、直前3か月については、約107時間から139時間であるから、認定基準別表1の「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」という具体的出来事に当たり、この心理的負荷の強度を「強」と判断する具体例として挙げられている「発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行」ったに該当する。
 労働密度に関しても(中略)認定基準別表1の心理的負荷の強度を「強」と判断する具体例である「その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった」にも該当するといえる。(中略)
 したがって、一郎の発病前の時間外労働については、平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」であるが、上記のとおり一郎は月に約100時間以上の時間外労働を恒常的に行っていたといえ、その長時間労働に見合う業務内容であったこと等に照らすと、心理的負荷の総合評価は「強」であるといえる。(中略)
 (オ) 以上によれば、一郎の本件精神障害の発病は、恒常的な長時間労働によるものといえ、業務起因性が認められる。
 イ 本件精神障害発病後の自殺の業務起因性について
前記認定事実(1)ウのとおり、一郎は、平成22年1月以降徐々に独り言が増えていたが、同年6月頃には独り言が強くなりXが休職するほどの状態であり、同年7月頃には、職場の者も一郎の精神的な変調に気が付くほどとなっており、本件精神障害が悪化して本件自殺に至ったものということができる。(中略)
 これに加え、本件精神障害発病後にこれを増悪させるような業務外の要因等は認められないことを考慮すると、本件精神障害が上記のような業務により悪化し自殺に至ったということができ、本件自殺について業務起因性を否定すべき特段の事情はない。
 ウ 以上によれば、一郎は業務により本件精神障害を発病したことにより、正常な認識、行動選択能力が著しく阻害され、あるいは、自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態で自殺したものと推定できる。
3 したがって、一郎の自殺について業務起因性を認めることができるから、これを業務起因性がないものと認定してされた本件処分は違法である。