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ID番号 09051
事件名 請求異議等本訴事件(19263号)、慰謝料等請求反訴事件(27821号)
いわゆる事件名 ブルームバーグ・エル・ピー(強制執行不許等)事件
争点 社員に対する解雇の有効性等が問われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (本訴19263号)(1) 被告Yを雇用していた一般顧客向けに経済、金融情報を提供する通信社である原告Xが、Yに対し、主位的に、前訴判決について弁済による賃金請求権の消滅、および解雇による雇用契約の終了をそれぞれ請求異議の事由として、前訴判決に基づく強制執行の不許を求める(主位的請求(1))とともに、雇用契約の不存在の確認を求め(主位的請求(2))、また、Xが上記解雇の後にYに賃金として支払った金員について民法703条及び704条に基づき、不当利得の返還及び利息の支払を求め(主位的請求(3))、予備的に、YにXの東京支局のReporter(記者)以外の職で勤務することを命じることができる雇用契約上の権利の確認を求め(予備的請求)提訴したもの。
(2) 東京地裁は、Xの主位的請求につき一部認容し、その余の請求を棄却、予備的請求を却下した。
(27821号)(1) Yが、Xによる上記解雇及び本訴事件の訴え提起等がYに対する不法行為に該当すると主張して、民法709条に基づき、慰謝料300万円及び遅延損害金の支払を求める(反訴請求(1))とともに、平成22年9月支給分から平成25年4月支給分までの未払賃金の支払を求め(反訴請求(2))提訴したもの。
(3) 東京地裁は、Xの主位的請求につき一部認容し、その余の請求を棄却した。
参照法条 民法709条
民事訴訟法134条
民事訴訟法135条
体系項目 解雇(民事)/解雇権の濫用
労働契約/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償
賃金(民事) /賃金の支払い原則 /全額払・相殺
裁判年月日 2015年5月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)第19263号/平成25年(ワ)第27821号
裁判結果 一部認容、一部棄却、一部却下(19263号)、一部認容、一部棄却(27821号)(控訴)
出典 労働判例1121号38頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇(民事)/解雇権の濫用/解雇権の濫用〕
 Yが本件提案を拒否したことをもって、上記復職条件への同意を前提とする和解協議には応じられないとの意思を明らかにしたということはできるが、これをもって、Yが記者以外の職で勤務する意思がないことを明らかにしたとか、Yが記者以外の職で労務を提供することを拒否したなどと評価することはできないというべきである。さらに、本件提案に先立つ平成24年12月26日付けのD労連等の回答書(同(4)オ(イ))についても、その文面を素直に読む限り、D労連等として、復職後の職種の問題を協議の前提条件とするのであれば裁判外での協議には応じないという趣旨を述べたにとどまるものと解され、Yが、Xから具体的な職種を指定して復職を命じられた場合も含めて、記者以外の職で勤務する意思がないことを明らかにする趣旨のものであると解することはできない。そして、このほかに、Yが記者以外の職で勤務する意思のないことを明らかにしたとか、Yが記者以外の職で労務を提供することを明確に拒否したなどと評価し得る事情は認められない。(中略)
 本件解雇は無効であり、Yは、平成25年5月10日以降も、Xに対して雇用契約上の権利を有する地位にあったから、Yが同日以降の賃金として受領した金員が法律上の原因に基づかないものであったとは認められない。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 本件解雇の当時、既に前訴判決によってYが雇用契約上の権利を有する地位にあることが確認されていた(同(3)ウ)から、Yにおいて、前訴判決が確定すれば職場に復帰することができるとの期待を有していたと解されるところ、本件解雇は、前訴判決が確定しても直ちに職場に復帰することが望めなくなるという意味で、Yの上記期待を害するものであったということはできる。しかしながら、そもそも労働者には原則として就労請求権はないと解されるから、本件解雇がなかったとしても、XがYを就労させる義務を負うことにはならず、その意味で、上記期待は事実上のものにとどまり、民法709条の「法律上保護される利益」であるとまではいうことができない。また、前訴判決においては、Xに対し、終期を定めることなく、Yに毎月の賃金を支払うことが命ぜられていた(同(3)ウ)から、本件解雇によって直ちにYが将来の賃金の支払を受けられなくなるというわけでもない。そうすると、本件解雇が、Yの権利又は法律上保護される利益を侵害するものとして、不法行為を構成するとまでは認められないというべきである。
〔賃金(民事) /賃金の支払い原則 /全額払・相殺〕
 XがYに対し、賃金として、平成22年9月から平成25年4月まで毎月25日限り67万5000円の支払義務を負っていたこと、Xが上記各賃金に対する遅延損害金を支払っていないことは、当事者間に争いがないところ、上記各賃金に対する各支払期日の翌日から元金完済日である平成25年4月25日までの遅延損害金の額は、別紙計算書のとおり、合計167万1725円となる。