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ID番号 09089
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 大王製紙事件
争点 配置転換命令、降格処分、出向命令、懲戒解雇の有効性が問われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1) Y(被告)に雇用されていたX(原告)が、Yに対し、Yによる配置転換命令、降格処分、出向命令、懲戒解雇はいずれも無効であると主張して、原告が労働契約上の権利を有し、降格処分前の地位にあること、配置転換先及び出向先に勤務すべき労働契約上の義務がないことの確認を求めるとともに、未払賃金、解雇後の月例賃金及び賞与並びにこれらに対する遅延損害金の各支払を求め、また、YがXの内部告発に関するプレスリリースを発出したことによりXの名誉を毀損し、懲戒委員会を開催してXを難詰し、全く合理性のない配置転換命令等を乱発し、無効な降格処分及び懲戒解雇をするなどした一連の行為が、YのXに対する不法行為を構成すると主張して、民法709条、715条に基づき、損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 東京地裁は、出向命令権の濫用、およびそれに伴い出向拒否を理由とする懲戒解雇につき、懲戒解雇件の濫用を認め、賃金請求を一部認容したが、これらに関する不法行為の成立は認めなかった。
参照法条 民法536条
労働契約法14条
労働契約法15条
労働契約法16条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用
労働契約(民事)/人事権/(1)降格
配転・出向・転籍・派遣/出向命令権の限界
懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用
裁判年月日 2016年1月14日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)6929号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1140号68頁
労働経済判例速報2283号13頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用〕
 本件告発状は、別紙1(告発状)のとおり、Y及びその関係会社において不適切な会計処理がされていること等を内容とするものであったから、Yにおいて、本件告発状の作成者であるXに対するヒアリングを実施するなどして本件告発状の記載内容を調査する必要があると判断したこと、そのためにXをYの東京本社に在籍させておく必要があると判断したことは、いずれも合理的であったということができる。そうすると、本件配転命令は、業務上の必要性を有するものといえ、これがXに著しい不利益を負わせるものと解すべき事情も認められないから、本件配転命令が権利を濫用したものであると認めることはできないというべきである。
〔労働契約(民事)/人事権/(1)降格〕
 就業規則22条1項違反(名誉毀損)の点について、Xは、Fが本件告発状の記載内容を第三者に流出させる客観的な可能性がある状況において、当該可能性を認識しながら、あえてYの名誉を毀損する記載のある本件告訴状をFに交付したものであり、Fが本件告発状をYの役職員らに送付し、本件告発状の記載内容を取引銀行及び業界新聞の発行会社に流出させたことによって、現実にYの名誉が毀損されたことは明らかである。そうすると、XのFに対する本件告発状の交付は、Yの名誉を毀損するものとして、就業規則22条1項に違反するというべきである。
 就業規則22条2項違反(秘密漏えい)の点について、Xが「業務上知り得た会社の秘密を他に漏らし」たと評価することができるというべきであり、したがって、Xは、就業規則22条2項に違反したものというべきである。
 Xが就業規則22条1項及び2項に違反した程度は重いということができるから、Xは、懲戒規程6条2号に該当するものと認められる。また、Xは、Y経営陣の失脚という背信的な目的で本件告発状をFに交付し、上記のとおり重大な結果を生じさせたものであるから、Xの行為は、会社の秩序を乱すものとして、懲戒規程6条9号にも該当するというべきである。
 Xの非行の程度と本件降格処分の内容とを比較衡量すれば、本件降格処分が今後のXの人事考課等における有形無形の不利益を伴うものであろうことを考慮しても、本件降格処分が重すぎて不当であるとは認められないというべきであり、ほかに本件降格処分が懲戒権を濫用したものであると解すべき事情は認められない。
〔配転・出向・転籍・派遣/出向命令権の限界〕
 Yは、懲戒事由に該当する非行をしたXの処遇として、本件降格処分とB出向命令とを併せて決定したものであり、実質的にXを懲戒する趣旨でB出向命令を発したとの評価を免れないというべきである。そうすると、B出向命令は、その動機・目的が不当なものであるといわざるを得ないことになるから、出向命令権を濫用したものとして、無効であるというべきである
〔懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用〕
 B出向命令は、出向命令権を濫用したものとして、無効である。そうすると、XがB出向命令に従わなかったことをもって、Xが懲戒規程7条14号の「配置転換、転勤、出向などを拒否したとき」に該当するということはできないから、本件懲戒解雇は、就業規則所定の懲戒事由を欠き、その効力を生じないというべきである。