全 情 報

ID番号 10092
事件名 地方公務員法違反被告事件
いわゆる事件名 福教組事件
争点
事案概要  福教組が行った勤評反対をめぐる一斉休暇闘争に関連して違法な同盟罷業をあおったとして福教組の組合役員が地公法違反で起訴された事例。
参照法条 労働基準法39条
地方公務員法61条4号
体系項目 年休(刑事) / 年休の意義
年休(刑事) / 年休の付与
裁判年月日 1962年12月21日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (わ) 1033 
昭和33年 (わ) 1034 
昭和33年 (わ) 1035 
昭和33年 (わ) 1036 
昭和33年 (わ) 1037 
裁判結果 有罪(罰金5万円,3万円,2万円,1万円)
出典 下級刑集4巻11・12合併号1094頁/時報334号2頁/教職員人事判例3号327頁
審級関係 上告審/最高三小/昭46. 3.23/昭和43年(あ)319号
評釈論文
判決理由 〔年休-年休の意義〕
 ところで、右有給休暇請求権の法的性質をめぐつて請求権説と形成権説とが対立しているが、当裁判所は、これを特殊の請求権と解するのが、相当と考える。蓋し、使用者は、労基法第三十九条第三項により、同項但し書の場合を除いて、請求された時季に有給休暇を与えるべきことを覊束されている点において、普通の請求権の場合と異るものがあるが、他方同条第一項乃至第三項がいずれも休暇を「与えなければならない」とか「与えることを要しない」という表現を用いていることに鑑みると、法は使用者側における休暇を与える行為即ちその承認と相俟つて有給休暇権が発効すると為す立場をとつているものと解され、又同法第百十九条第一号掲記の同法第三十九条違反の罪も、形成権説をとると、同条第三項に関しては殆んど成立する余地が無くなつて、わずかに同条第四項に関してのみしか成立しないこととなり、請求権説に従い、使用者が同条第一項第二項の請求に対し不当に同条第三項による有給休暇の承認を与えなかつた場合にも成立すると解する方が、少くとも現行同法の精神に忠実なものと考えられるので、右有給休暇請求権は、労働者の請求により直ちに形成的効果を生ずるものではなく、やはり一種の請求権に属するものと解するのが、より適切であるというべきである。そして、かく解することは、後述使用者側における有給休暇中の賃金支払義務との関係においても寧ろ調和を保つ所以であり、なお、実際面において特段の不都合を生ずるものとも考えられない。さらに、いずれにせよ、労基法第三十九条第三項但し書により、使用者は、右請求された時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合において、他の時季にこれを与えることができる、と為す点では、両説ともに異るところがないことも、留意さるべきであろう。
 かくして、有給休暇の請求がなされた場合においても、右のような承認ないし時季変更(仮りに形成権説に従えば後者のみ)というかたちで、使用者側の労働力に対する管理支配が明確に留保されているのであつて、それは、使用者側が有給休暇に対し文字通り給料或は賃金を支払う義務を負担させられていることと対応するものと、考えられる。いわゆる有給休暇はこのような基盤の上に成立しているものである。
〔年休-年休の付与〕
 以上明らかにしたように、有給休暇請求権の拠つて立つ基盤関係から全く離脱し、使用者側に留保されている労働力管理権をも排除して一斉に休むという本件一斉休暇は、もはやその実体において労基法第三十九条に規定する有給休暇の範疇に属しないものというべく、その際すでに校長の承認がなくても、授業を放棄することを意図しておりながら、ことさらに為された前記有給休暇請求手続の如きは、空しい紛飾的行為に過ぎなかつたものと目する外はないであろう。かくして、本件「あおり」行為の対象とされた一斉休暇は、右のような実体に従い、労基法第三十九条による合法性の衣を脱がれ、裸の事実行為として、他の面からの法的評価にさらされねばならぬわけである。
 而して、本件一斉休暇が、勤評阻止という組合主張の要求を貫徹することを目的とした組織的、集団的授業放棄であつたことは、判示認定のとおりであり、且つそれが業務の正常な運営を阻害することも、前々段において事業の正常な運営の阻害という問題に関し説示したところと同様の理及びそれが前記の如く使用者側たる校長の業務命令にも服しないものであつたことに徴し、これ亦明らかなところであるから、結局右一斉休暇は地公法第三十七条第一項前段にいわゆる「同盟罷業」に該当し、従つて、被告人等の判示所為は、同法第六十一条第四号に規定する、これらの行為をあおつたものに該当するものと、いわねばならない。