全 情 報

ID番号 10158
事件名 労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名 野田木蝋化学工業事件
争点
事案概要  労働者の同意を得て賃金の支払を無期限に延期することが労基法二四条を成立させるか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法24条
労働基準法120条1号
体系項目 賃金(刑事) / 賃金の支払い方法 / 定期日払い
裁判年月日 1955年5月19日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号
裁判結果
出典
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金の支払い方法-定期日払い〕
 労働基準法第二十四条第二項は他の条項と共に労働者保護のため罰則附強行法規を以て賃金は必ず毎月一回以上定期に支払うべきことを命じているのであるから会社が労働者との間において、生活の根源である賃金の支払を予め無期限に延期するが如き契約をしても何等効力が無く、これに藉口して処罰を免れることはできないものと謂わねばならない。このことは同法第十三条にその趣旨を窺い得るのみならず、若しかかる契約が許されるならば会社は常に経済的弱者である労働者に対し自己に有利な契約を強い法が刑罰を以て強行せんとする労働者保護の規定は全く空文化するに至るであろう。
 (中略)
 事実に徴すれば、会社はその所有財産につき猶相当の余剰担保能力を持つていたことが窺われ、同月末右融資が無期延期となり担保が一応浮いた形となつたのであるから、左程多額でない四、五月分の賃金支払につき被告人において今一段の配慮と工夫と努力をなしていたならばその賃金繰り必ずしも望みがないではなかつたことが窺われる。従つて斯る事実その他記録に現われた諸般の事情を考慮すれば被告人が本件未払賃金の支払につき社会通念上使用者としてなすべき最善の努力を尽したとは認め難いから、被告人に右支払を期待することは何等不能を強いるものではなく、原審がこれと同趣旨に出でたのはまことに相当であつて記録を精査するも原判決に事実誤認の疑は存しないから、論旨は理由がない。