全 情 報

ID番号 10253
事件名
いわゆる事件名 扶桑商運事件
争点
事案概要  会社存続のため労働者が賃金不払を承認していたことが使用者の賃金不払の責任を免れさせるか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法24条
体系項目 賃金(刑事) / 賃金の支払い方法 / 定期日払い
賃金(刑事) / 賃金の支払い方法 / 罪数
裁判年月日 1950年11月4日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号
裁判結果
出典
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金の支払い方法-定期日払い〕
 次に弁護人は各労働者は例外なく会社の経営存続を希望し会社存続のためには賃金不払を承認していたと主張するけれども記録を精査してもかかる事実は認むることができない。またたとえ各労働者が賃金の不払を承認していたとしても賃金の支払は労働条件の中でも重要な条件であつて使用者に対し、労働者を保護するために特に賃金支払確保の目的から労働基準法第二十四条が設けられたのであるから同条第一項但書及び第二項但書の場合の外所定の支払方法を変更することは許されないものと解するを相当とする。従つて労働者の承認を理由として使用者が本条違反の責任の免れるわけにいかない。
〔賃金-賃金の支払い方法-罪数〕
 弁護人は、本件は被告人の賃金不払行為のあつた各月毎に多数労働者に対する不払が一個の不作為によつて成立するのであるから、いわゆる一所為数法であつて併合罪ではないと主張するけれども、労働基準法第二十四条違反の所為は各月毎に各労働者毎にそれぞれいわゆる併合罪の一罪が成立し且つその賃金不払の行為は各労働者毎に生ずるものであることは、賃金支払行為が各個の労働者毎になされることを要する事実によつて明らかである。次に弁護人は原判示は併合罪の判示か否か明確を欠くと主張するけれども併合罪の関係にある犯罪行為を判示するには、その各個の行為の内容を一々具体的に判示し更に日時等を明らかにすることによつて一の行為を他の行為より区別し得る程度に特定し各個の行為に対し法令を適用するに妨げない限度に判示することをもつて足る。原判決を調査するに別表において各労働者の氏名と不支払賃金及び年月日を掲げて各個の不払を明確にし一の不払行為と他の不払行為を区別し各個の不払行為に対し労働基準法第二十四条第百二十条第一号を適用するに妨げないことが明らかであるから原判決には所論の違法はない。論旨は全く理由がない。