全 情 報

ID番号 10262
事件名
いわゆる事件名 与瀬ミシン工場事件
争点
事案概要  ミシン見習の女子を叱責または解雇の脅威のもとで好まない家事手伝に従事させていたことが強制労働にあたるか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法5条
体系項目 労基法総則(刑事) / 強制労働
裁判年月日 1950年12月9日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号
裁判結果
出典
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法総則-強制労働〕
 二 昭和二十四年五月初頃より同二十五年二月下旬頃迄の間同工場ミシン工に対し同女をミシン見習工として雇傭し、同女も同職を熱望して居たにも拘わらず家事労働雑役に従事せしめ、同女も被告人より叱責せられたり或は解雇されることを恐れてその侭不本意ながら家事労働に従事し、以て同女の精神の自由を不当に拘束して同女の意志に反して労働を強制したというのであるが…、又同じくこの事実については当裁判所のAに対する証人訊問調書の記載によれば、同女はミシンの見習工として前記工場に雇われていたのであるが目が悪く精密なミシン仕事には向かないところから、昭和二十四年五月頃被告人より家事の手伝を頼まれ、快くこれに応じたのであるが、同年十月十七日頃その母と共に被告人に対し、ミシンをやらせないなら暇を貰いたい旨申入れたので被告人もこれを承知し、暫くミシンの仕事をやらせていたのであるが、同年十月二十日頃よりミシン仕事が暇になつたため、再び家事の手伝をする様になり、そのまま翌昭和二十五年二月下旬頃までミシンの見習と共に家事の手伝をしていた事実が認められる。しかしながら、同女がどうしてもやりたくなかつたならば、何時でも同工場をやめることができたのであつたし、同女が仕事を続けていたのは、前記調書中に同女の供述として、記載されてある如く家事を手伝つてくれるよう被告人より言われた時人情上断るのは悪いと思つたことと、被告人の工場をやめても外に行くところがなかつたので、よい所がみつかる迄我慢して勤めるつもりであつた為であると認められる。この様に同女としては、何時でもいやな仕事をやめることができたのであり、たとえこの仕事を拒絶した結果同女が右工場を解雇されたとしても、それが同女や同女の家族に生活上差しせまつた苦痛をもたらしたものと認められないから、被告人が同女の精神の自由を不当に拘束して同女の意思に反して労働を強制したということはできず、外に右公訴事実を肯認する何等の証拠もない。
 (中略)
 つぎに、本件公訴によれば被告人は尚法定の除外事由がないのに前記工場に於て一、昭和二十五年二月九日午後四時三十分頃同工場織物工Bが家事の都合により早退の申出をなしたる処、之を拒否したる為止むなく同女が作業を中止して帰宅せんとするや、之を制止するため工場出口の硝子戸に旋錠監禁して同日午後五時四十分頃迄就業せしめ、以て同女の意思に反して労働を強制し、……たというのであるが……
 右の一の事実については当裁判所の検証調書、同添付の図面によれば前記工場には被告人が旋錠したという出口の外に出入口が三カ所ありこの何れにも旋錠したという事実は認められず、また被告人は出入口のタコネジのネジ棒をさし込んだのに過ぎず鍵をかけたわけではなく、被害者Bが強いて帰ろうとすれば他の出入口より帰ることもできるし、又前記のタコネジを内側よりはずして、その出入口より帰ることも出来たわけであり、同女を工場内に監禁したという事実は認められない。また、当裁判所の同女に対する証人訊問調書中にも、同女の供述として『私は無理に働かされたとは思わない』旨の記載のあることよりしても、被告人が同女の精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて同女の意思に反して労働を強制したものと認めることはできず、外に右公訴事実を認めるに足る証拠はない。