全 情 報

ID番号 10505
事件名 労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名 滲透工業事件
争点
事案概要  満一八歳に満たない少年に対する時間外労働につき労基法六〇条三項の意義が争われた事例。
参照法条 労働基準法32条
労働基準法60条3項
体系項目 年少者(刑事) / 未成年者の時間外労働
裁判年月日 1970年1月27日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (う) 1052 
裁判結果 破棄差戻,(確定)
出典 高裁刑集23巻1号17頁/時報603号104頁/タイムズ248号234頁/家裁月報23巻2号117頁
審級関係 一審/神戸家尼崎支/昭43. 6. 3/昭和43年(少い)1号
評釈論文
判決理由 〔年少者-未成年者の時間外労働〕
 右六〇条三項も満一五才以上で満一八才に満たない者についての労働時間の基準規定として、一日八時間制、週四八時間制の原則を宣言した同法三二条一項の趣旨をも包摂し、しかも週四八時間制をくずすことなくその幅の中でのみ一日八時間制に対しある程度の変則措置を認めたものであると解するのが相当であり、従つて、右六〇条三項に包含されている規範内容としては、(1)使用者は同条項に定める変則措置を採る意思なくして、(イ)一日八時間をこえて、または(ロ)週四八時間をこえて年少労働者を労働させてはならない、(2)使用者は右変則措置を採る意思であつても、(イ)一日一〇時間をこえて労働させてはならない、(ロ)週の一日について四時間以内に労働時間を短縮しなければならない、(ハ)週四八時間をこえて労働させてはならない、という五つのものが考えられる。所論は、これら規範相互の関係とくにその優劣順位が不明確であると主張するのであるが、先ず(1)の(イ)と(ロ)、(2)の(イ)(ロ)と(ハ)の関係をみるに、右六〇条三項が基礎としている三二条一項において、労働時間を先ず一日単位で規制したうえ、さらに週単位で規制しているという立言形式による順序や、労働時間の規制は、これを歴史的にみると一日八時間制の確立を基幹とすることが明らかで、それが週休制(同法三五条一項)と結合し、その当然の結果として週四八時間制の成立をみるに至つたものであることにてらすと、労働時間の規制は第一次的には一日単位でなされるべきで週単位によるのは第二次的なものというべく、従つて、一日について違反が成立するかぎり、その部分を含んでの週単位の違反はいわゆる法条競合の一場合として別罪を構成しないと解するのが相当である。
 (中略)
 労働基準法が時間外労働について厳格な規制をしている趣旨にかんがみると、同法六〇条三項(三二条一項)にいう「労働させ」るとは、単に使用者が労働者にこれを指令したり依頼した場合にかぎらず、労働者からの申出によつて労働を許可した場合はもとより、これを黙認した場合をも含むものと解するを相当とするところ、本件についてこれをみるに、許可を求めることなく自発的に時間外労働をした場合においても、自然人被告人らは当該年少労働者がそのように時間外労働をすることによりその職場全体の終業時刻がそれだけ早く終るとの考慮から、その年少労働者による時間外労働を黙認していた場合もあつたことが証拠上明白である。従つて、許可および黙認による自発的時間外労働を右法条による「労働させ」た場合でないとする所論は採用しがたい。