全 情 報

ID番号 10510
事件名 業務上過失致死傷事件/労働基準法違反事件
いわゆる事件名 田辺建設事件
争点
事案概要  建設会社の工事部工務課長がずい道工事地下作業場で、ガスによる危害を防止するため必要な措置をとらず、爆発により死傷事故を生じさせたとして起訴された事例。
参照法条 労働基準法10条
労働基準法42条(旧)
体系項目 労基法総則(刑事) / 使用者 / 労基法の使用者
裁判年月日 1968年8月7日
裁判所名 新潟地高田支
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (わ) 69 
裁判結果 無罪
出典 下級刑集10巻8号845頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法総則-使用者-労基法の使用者〕
 A株式会社には事務担当と工事担当の二人の常務取締役の下に総務、営業、経理、工事の四部があり、工事部長は工事担当常務Bが兼務し、その下に工務、土木、建築、機電の四課があり、被告人はそのうちの工務課長を担任していたこと、工務課の業務は工事現場とは直接関係なく原価管理、工程管理や諸官庁に対する関係書類の作成や統計等が主なものであつて、したがつて、被告人には右工務課長本来の立場上は本件工事の実施その他現場における作業等に対する監督、指揮すべき職責はなかつたこと、ただ、会社の幹部職員として、右B工事部長の命により、昭和四〇年九月二〇日頃本件工事の入札前の現場説明に、当時会社の直江津営業所土木係長であり、後、本件工事の現場代理人となつたCや、当時の営業部長Dらとともに出席したことや、同年一一、二月頃高田労働基準監督署が会社に指示事項を示す際、偶々右Cが出張中であつたため、Bの命によりCに代つて同署に出頭したことがあつたにすぎなかつたこと、また、被告人は、本件工事現場に臨んだのは、後述の昭和四一年一月二九日のガス検知の時までは、監督官庁の火薬庫検査の際、工事現場付近にある火薬庫まで出向いたことと、昭和四一年一月二〇日頃に現場でロツカーシヨベルの引き渡しがあつたときこれに立ち合うために出かけた、わずか二回に過ぎなかつたこと、もつとも、被告人は、本件工事開始当時、会社のE土木課長が二四号台風災害復旧工事の仕事に追われていた関係があつて、B部長から、Cの仕事をみてやつてくれ、と漠然と指示を受けてはいたが、実際には被告人が持ち合せていた炭砿での知識、経験からは単に現場代理人のCから掘さく方法につき相談を受けただけで他にあまり口を出す余地がなく、本件工事の施工についてはほとんど関与していなかつたこと、以上の事実を認めることができる。
 (中略)
 以上に説明したような被告人の職責と本件工事に対する関与の程度から考え、本件工事については被告人は労働基準法上使用者の立場にあつたものとは認められない。