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ID番号 10522
事件名 児童福祉法違反事件/労働基準法違反事件
いわゆる事件名 上六観光トルコ事件
争点
事案概要  満一八歳に満たない女子を雇い入れてトルコ風呂で使用していた経営者が児童福祉法労基法違反で起訴された事例。
参照法条 労働基準法8条14号
労働基準法9条
労働基準法11条
労働基準法62条1項
体系項目 労基法総則(刑事) / 適用事業 / 適用事業の範囲
年少者(刑事) / 福祉に有害な業務
労基法総則(刑事) / 労働者
裁判年月日 1966年9月29日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和41年 (う) 246 
裁判結果 棄却
出典 下級刑集8巻9号1209頁/タイムズ198号190頁
審級関係 控訴審/10519/二小/昭42.11. 8/昭和41年(あ)2471号
評釈論文
判決理由 〔年少者-福祉に有害な業務〕
 児童の心身に有害な影響を与える行為かどうかは、各時代に即応した社会通念に照らし、考察すべきものとは解するが、原判示証拠によれば原判示のとおりであつて、満一八才に達しない少女に、客の指名又は輪番によつて入浴客に一対一で個々につかせ、外部から見えない個室内で、ブラジヤーとシヨートパンツのみを着用させて、全裸の男の入浴客の身体を洗い、裸の背にタオルを着せうつ伏せに臥した身体に跨がる等して身体中をマツサージする等の行為をさせていたことは明らかで、右は、健全な社会通念に照すとき、未だ心神の発育不完全の児童の精神面、情操面、身体に悪影響を及ぼし児童の心身に有害な影響を与える行為といわざるを得ない。
〔労基法総則-労働者〕
 労働基準法の適用される労働者は、同法第九条によると、この法律で労働者とは、職業の種類を問わず、前条の事業又は事業所(以下事業という)に使用される者で、賃金の支払われる者をいうとあるので、使用される者であることと賃金を支払われる者であることが要件である。
 そこで先ず、本件につき使用従属関係につき検討するのに、原判示証拠によれば、被告会社がトルコ娘を決定するについては、同娘に面接し、履歴書を提出させ、Aに代りBが会社業務に従事するようになつた昭和三九年八月以降には入店申込書を提出させた上、採用を決定し、採用決定の場合には同娘の店名を指定し、就業前に会社の者がトルコ娘等に客に対する扱い、マツサージ等の技術の講習を実施し、就業については各娘に公休日の割当をし、更に毎日の出勤時間を午後一時、三時、五時、と区分し、三交代制にし娘等に順次交代に出勤時間を指定し、欠勤書留簿を設けて出欠を統制し、正当の理由なき欠勤、遅刻に対しては各一回につき前者には二〇〇円後者には一〇〇円の過怠金を徴収することとし、出勤者に対しては点呼、部長等から客に対する扱い態度についての訓示をなし、出勤時間中は自由な外出を認めず、会社社則を定め
 (中略)
 右社則に違反した時は、出勤停止処分を申し渡す旨規定し、なお勤務につき住込を希望するものには、会社所有経営のC寮に居住させ、月一五〇〇円程度の部屋代を取るのみで、その厚生を計り、又従業中、身につけるブラジヤー、シヨートパンツの貸与などもしていること又会社は入浴客に対しては入浴料を取るがこの他にトルコ娘にも三〇〇円(後には四〇〇円)のサービス料を支払うべき旨掲示していることが認められる。これらの事情を勘案すると、会社のトルコ娘に対する関係は、指導、監督につきかなり強力な措置を包含し、その指導監督の下に会社の命ずる労務に服する義務を科する意図を持つており、同娘等もまたこれを当然のこととして受入れていると認められ、被告会社と本件トルコ娘との間には使用従属の関係にあるものと認めるのが相当である。
 (中略)
 次に、賃金支払の関係につき案ずるに、労働基準法第一一条によると、この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいうとある。従つて客から直接に労働者に支払われるチツプは、原則としては賃金ではない。しかし、労働の報酬として使用者から労働者に支払われるものであれば、その名称の如何に拘らずすべて賃金であるので、労働の報酬として使用者の施設を使用する利益を労働者に与えられておればこの利益は賃金と解すべきである。ところで原判示証拠によれば本件Dトルコでは、入浴客より入浴料として一、〇〇〇円ないし一、四〇〇円を徴収するが、トルコ娘に対しては給料の支払はせず、トルコ娘はその収入としては入浴客に対し、洗身、洗髪、マツサージ等を実施し、これに対するサービス料(チツプ)として、各入浴客から直接に、会社の何等の関与もなく(会社はサービス料三〇〇円(後日四〇〇円となる)を支給されたいと掲示している程度のみ)三〇〇円(後日四〇〇円となる)以上の金員を受領していたものであることトルコ娘は会社に対し出勤毎に一日一〇〇円を施設使用料として支払つていることが認められ、一応賃金を支給しない形態を採つているかのようであるが、右施設使用料は前叙のとおり、単なる名目的なものに過ぎず、元来、トルコ娘の得るサービス料はトルコ娘がDトルコ経営にかかる営業設備を使用して入浴客の洗身、マツサージ等をする労働の対償として右客より支払われるものであり、また入浴客はこのようなトルコ娘のサービスが期待できるので高額な入浴料金を支払うものであるから、Dトルコはトルコ娘の労働によるこのような利益をうる対償として同娘等が右サービス料を得るため、会社の営業設備を使用する利益を同娘等に与えているものと認めるのが相当である。してみると、この営業設備を使用する利益が労働の報酬として支払われ、トルコ娘に対し賃金の支払がなされているというべきである。
〔労基法総則-適用事業-適用事業の範囲〕
 Dトルコは公衆浴場法に基き許可されたものであるが、この許可の形式からだけで事業の種類が確定されるものではなく、労働省労働基準局長から大阪労働基準局宛の昭和四〇年一月二三日付三九基収第八九三三号の二に「いわゆるトルコ風呂に対する法第八条各号の適用に当つては、一般の事業場の場合と同様に当該事業場の労働の具体的態様等に即して個別的に判断すべきものである」とあるように、現実の態様に即して個別的に労働基準法第八条各号の適用を判断すべきものと解する。ところで、原判示証拠によれば、Dトルコでは、ソーシヤルトルコ部屋三四室、グランドトルコ部屋二一室及びデラツクストルコ部屋一三室計六八室の個室を有し、これらの個室は外部から内部の見えない作りとなつており、一般共同浴場は有せず時期において相違はあるがトルコ娘を数十名持ち、このトルコ娘が入浴客と一対一で個室内で、ブラジヤーとシヨートパンツのみで、応対し、その洗身、先髪、爪切り、ひげそり、マツサージ等の作業に就いていることが認められ、この現実の態様にかんがみると、Dトルコの事業は労働基準法第八条第一四号の接客業に該当するものというべく、よつて同法第六二条第一項、第四項に基く一八才未満の女子に対する深夜業禁止規定の適用を免れない。