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ID番号 10552
事件名 労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名 渡辺度器製作所事件
争点
事案概要  使用者が労働者に違法な時間外させ、かつそれについての割増賃金を支払わなかったとして起訴された事例。
参照法条 労働基準法32条
労働基準法37条
労働基準法119条1項
体系項目 賃金(刑事) / 割増賃金の不払い
罰則(刑事) / 併合罪等
裁判年月日 1957年3月7日
裁判所名 新潟地三条支
裁判形式 判決
事件番号
裁判結果 有罪(懲役3か月)
出典 労経速報247号10頁/労働法令通信10巻20号2頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔罰則-併合罪等〕
 被告人の判示各所為は、いずれも労働基準法第百十九条第一号、第三十二条第一項に該当し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるので所定刑中いずれも懲役刑を選択した上で、同法第四十七条本文、第十五条により、最も犯情の重いと認められる別紙一覧表〔略〕記載21の労働基準法違反の罪の刑に法定の加重をし、其の刑期範囲内に於て、被告人を懲役三月に処するが、情状右刑の執行を猶予するものを相当と認め、同法第二十五条第一項により本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
〔賃金-割増賃金の不払い〕
 本件公訴事実は、別紙〔略〕第二記載の通りである。検察官は公訴事実について「労働基準法第三十七条第一項(以下単に同条と略称する。)は使用者が同法第三十二条又は同法四十条に定める労働時間を超えて労働者に労働させた場合には割増賃金を支払わなければならないと云う法意であるから、使用者は、本件の如き違法な時間外労働をさせた場合にも割増賃金を支払わなければならない。もしそうでなければ、適法に時間外労働を行わせた者は、割増賃金を支払わなければ処罰されるが、違法に時間外労働を行わせた者は、割増賃金を支払わなくともよいという不合理な結果になる。つまり同条は、本件の如き違法な時間外労働の場合にも使用者に当然割増賃金支払の義務のあることを包含する規定である。従つて公訴事実の第一は、同法第三十二条違反となり、第二は同条違反となり、両者は併合罪の関係にあるものと云わなければならない。」と主張している。
 もし違法な時間外労働等の場合には使用者は、割増賃金を支払わなくともよいということになるならば、其れは、適法な時間外労働等との権衡上、成程不合理なのかかもしれない。其処で其の様な結果を避けるために、同条を右の様に解して、違法な時間外労働等の場合にも使用者は労働者に対し同条による割増賃金を支払わなければならないとすることは、根拠があろう。併し同条を其の様に解し得るとしても、それと違法な時間外労働等に対する割増賃金の不払を処罰出来るかどうかと云うことは、関係のないことである。
 右の主張の中には、同時に、違法な時間外労働等に対する割増賃金の不払が処罰出来ないとするならば、其れは不合理なことであるという考え方が存する様に思われるが、違法な時間外労働等は、其れ自体処罰の対象になつておるのであるから、更に其の場合の割増賃金の不払が処罰出来ないからと云つて別に不合理であるとは考えられない。もし違法な時間外労働等の場合にも、同条に定める率で計算した割増賃金を支払わなければならないと云うことは、同条によつて割増賃金を支払わなければならない義務があると云うことに外ならないのであるが、法は同条によつて割増賃金を支払う義務のある場合にそれを支払わない場合を処罰しておるのであるから、違法な時間外労働等の場合にも割増賃金を支払わない以上、処罰されるのは当然であるというのが、前記主張の論旨であるならば、それは同条の文理を全く無視したものであるから、到底採用に由ない。