全 情 報

ID番号 10579
事件名 業務上過失致死被告事件
いわゆる事件名 須藤組事件
争点
事案概要  労働基準法違反の罪を構成する行為と業務上過失致死の罪を構成する過失行為とが、構成要件的に重要部分において重なり合っていることが明らかであり、また両者の間に社会生活上前者が成立する場合後者が通常は相随伴して成立する関連性の存在する関係のある場合には、右両罪は刑法五四条一項前段にいわゆる「一個ノ行為」によっておかされたものとして観念的競合犯の関係にあるとされた事例。
参照法条 労働基準法42条
労働基準法45条
労働基準法119条1号
刑法211条前段
刑法54条1項
体系項目 労働安全衛生法 / 罰則 / 刑法の業務上過失致死傷罪
裁判年月日 1973年1月18日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (う) 1041 
裁判結果 破棄自判(確定)
出典 高裁刑集26巻1号1頁/時報695号122頁/東高刑時報24巻1号1頁/タイムズ292号363頁
審級関係 一審/墨田簡/昭47. 3.24/不明
評釈論文
判決理由 〔労働安全衛生法-罰則-刑法の業務上過失致死傷罪〕
 以上の認定事実によれば、(一)の(1)の労働基準法違反の罪を構成する〔中略〕行為と(一)の(2)の業務上過失致死の罪を構成する〔中略〕過失行為とは、その違法性の原点としての義務自体、-その性格の点は暫くおいて-その形態並びにこれを履行すべき時及び場所、ひいては懈怠の形態等当該犯罪の構成要件的行為がその重要部分において相一致し重なり合つていることが明らかであり、また、両者の間に社会生活上前者が成立する場合後者が通常は相随伴して成立する関連性の存在することも否定できない。両罪を構成する犯行が右の如き関係にある場合には、右両罪は刑法第五十四条第一項前段にいわゆる「一個ノ行為」によつておかされたものと認めるのが相当である。
 検察官は、この点に関し、労働基準法違反の罪は挙動犯、業務上過失致死の罪は結果犯であり、しかも、両罪を構成する義務は異質のものであるから、両罪は本件のような形態でおかされても「一個ノ行為」には該当しない旨主張する。按ずるに、挙動犯と結果犯との間に「一個ノ行為」と認め得る関係があるか否かは、挙動犯を構成する行為と結果犯を構成する行為(但し、結果は除外)-本件の場合は過失行為-に付これを比較検討し、両者の間に構成要件的行為の重要部分において重なり合い等の関係を認め得るときは、これに対し刑法第五十四条第一項前段を適用し得べきものと解する。而して犯罪を構成する義務が異質であるか否かは別個の犯罪が成立するか否かの根拠たるに止まり罪数の認定に影響を来すものではない。(なお、本件とは事案を異にしているが、道路交通法違反の罪と業務上過失致死の罪に関する最高裁判所昭和三十三年四月十日決定、刑集十二巻五号八七七頁以下参照)。検察官の主張は理由がない。
 (三)、さすれば、(一)の(2)の業務上過失致死の罪は(一)の(1)の労働基準法違反の罪と一所為数法の関係に立つものであるところ、後者については、(一)で認定のとおり、既に略式命令により罰金刑に処する旨の裁判があり、しかも、同裁判は確定しており、この裁判の既判力は前者、即ち、業務上過失致死の罪に関する本件公訴事実にも及ぶから、本件公訴事実については刑事訴訟法第三百三十七条第一号により免訴の言渡をなすべきものである。しかるに、原判決が事ここに出ず、右両罪を併合罪の関係にあるものとして、被告人に対し有罪の判決を言渡したことは違法であり、原判決は破棄を免れない。所論は理由がある。