全 情 報

ID番号 90009
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 洛陽総合学院事件
争点 退職金の減額・不支給の事由を広げた就業規則の変更は有効か、減額事由として挙げられた行為がその減額事由にあたるかが争われた事案
事案概要 (1) 学校法人Yは、不注意によるミスが度重なっている、37年勤続の家庭科担当専任職員Xに、書面で改善を指示したが、その後も改善されなかったことから懲戒戒告処分に付したところ、Xは退職した。しかしYは、Xの退職は、就業規則に新たに追加した「迷惑退職」に当たるとして退職金の4分の1を減額して支給したところ、Xは、その減額は無効であるとして、減額分と遅延損害金の支払いを求めて提訴した。
(2) 京都地裁は、ⅰ)退職金の減額・不支給事由に、「迷惑退職」等の場合を加えることは、労働条件を不利益に変更するものであるものの、綱紀を粛正する趣旨であり、減額事由を限定していることから法規範性が認められるとしたが、ⅱ)Xのミスには職務怠慢と言われてもやむを得ないものがあるが、その経緯や背景も含めて考察すると、勤続の功労を減殺するほどの背信行為とは言い難いとして、減額分の支払いと遅延損害金の支払いを命じた。  
参照法条 労働契約法10条
労働基準法89条
体系項目 賃金(民事)/退職金/退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 2005年7月27日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 平成15年(ワ)2865号 
裁判結果 控訴(後和解)
出典 判例タイムズ1233号239頁
労働判例900号13頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係
評釈論文 中園浩一郎・平成19年度主要民事判例解説〔別冊判例タイムズ22〕330~331頁2008年9月
判決理由 〔賃金(民事)/退職金/退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
(中略)本件変更は、(中略)定年又は自己退職を承認されたものの、退職直前に懲戒の事由又は解雇に該当する事由等の不都合な行為があって、学院に迷惑をかけた場合。」であると説明していることが認められ、従業員の側に一定の責に帰すべき事由が存在し、それによりYが迷惑を被った場合に限って退職金を減額又は不支給とする趣旨のものにすぎないと理解される(中略)従業員に対する綱紀を粛正する趣旨もあって本件変更を行ったものであることが認められ、加えて、一般に、使用者は、労働契約関係に基づいて企業秩序維持のために必要な措置を講ずる権限を持ち、他方、従業員は企業秩序を遵守すべき義務を負っていることをも考慮すると、Yが行った本件変更には、その必要性を認めることができるというべきである。(中略)
 Yの専任職員に対する退職金は、その制度上、功労報奨的なものというよりもむしろ賃金の後払い的性格の強いものというべきである。そして、上記「迷惑退職」に含まれる場合を広く解釈するときは、Yの独自の判断により上記性格を有する退職金の減額又は不支給が行われるおそれがあることとなって相当ではないから、本件変更にかかる退職金減額又は不支給事由である「迷惑退職」とは、単に当該従業員が不注意などによりYに迷惑をかけた上で退職した場合を指すものではなく、当該従業員に、その長年の勤続の功労を減殺ないし抹消してしまうほどの背信行為や不信行為が存在し、これによりYが相当程度の被害を受けた場合を指すものと解すべきである。(中略)
 いずれもXの職務懈怠や不適切さを問われてもやむを得ない事由ではあることは上記判断のとおりである(中略)
 以上の検討によれば、Xの職務懈怠や不注意を問われてもやむを得ない行為であってYにとって不都合な行為であるといえなくはないものが含まれているものの、その経緯や背景及び結果の重大性等について子細に考察するときは、いずれも、あるいはこれらを総合したとしても、Xの勤続の功労を減殺するほどの背信行為又は不信行為とまでいうことはできないものである。そうすると、結局、これらの行為を、Xの退職金減額事由としての「不都合行為」として考慮することはできない。(中略)いずれもYの就業規則所定の「迷惑退職」に該当するべき不都合行為には当たらないから、Yが減額した部分の退職金の支払いを求めるXの請求は認容されるべきものであるところ、Yが平成15年3月26日にXに対して退職金の一部である941万6325円を支払ったことは当事者間に争いがなく、したがって、上記減額部分についても同日に弁済期が到来したものというべきであるから、これに対する遅延損害金の起算点は、上記支払いの翌日である同月27日となる。