全 情 報

ID番号 00075
事件名 引受債務履行請求事件
いわゆる事件名 山陽商事事件
争点
事案概要  セメント会社においてセメント販売に従事している者との間における損害賠償額の予定を定める条項が労働基準法一六条違反にあたるか否かが争われた事例。(肯定)
 甲が乙のためにその販売先をさがして取引の交渉をし、取引が成立したときは、乙が甲に対して一定の割合による報酬を支払う旨の契約が、雇用契約であると認められた事例。
参照法条 労働基準法16条
民法623条,632条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 委任・請負と労働契約
労働契約(民事) / 賠償予定
裁判年月日 1957年7月19日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (ワ) 140 
裁判結果
出典 労働民例集8巻5号780頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労基法の基本原則―労働者―委任・請負と労働契約〕
 そこで原告会社と被告Y間の使用関係についてみるに成立に争ない甲第一号証、証人Aの証言の一部、被告本人尋問の結果を綜合すると、被告Yはかねてセメント販売の経験を有していたところ、偶々昭和二十九年八月頃からセメント販売業務を始めた原告会社に同年九月一日付で別紙差入書を差入れ爾来原告会社のセメント販売業務のみに従事し他に自己固有の本業又は兼業はこれを有していなかったこと、右による被告Y取扱にかかるセメントの販売方法は、同被告において任意買主を探索して取引の交渉をなし予め定められている条件に従って売買の下話が成立したときはこれを原告会社に報告し、原告において右買主の信用状態等を一応調査して最終的決定をなし、右調査の結果によっては取引を拒否していたこと、右取引について被告Yは販買価格、取引方法の決定権を有せず、これ等はすべて原告会社に留保せられていたこと、右取引はすべて原告会社と相手方との直接の取引であって原告会社のみが代金の請求受領の権利を有し、被告Yは取引数量に応じて原告会社より一屯につき百円前後の報酬を受ける以外に自己固有の権利乃至利益を取得し得なかったことが認められ右認定に反する証人Aの証言は信用し難い。ところで右認定の事実よりすれば原告と被告Y間の使用関係は原告会社が被告Yの提供する労務自体を自己の支配内に採入れて利用することを目的とする従属的使用関係であって結局出来高払制による雇傭の一型態に属するものと解するを相当とする蓋し被告Yの活動内容は原告会社のセメント販売業務の遂行を全うせしめる為にその販売先を探索して取引の交渉をなし、売買の下話が成立したときはいちいちこれを原告会社に報告することに止まり、それ以上に原告会社の為に自己の自由なる判断と責任において売買取引をする独自の権原は全くないのみならず、取引の結果原告会社より一定割合による報酬を受ける以外に自己固有の権利乃至利益は何等取得し得ないのであって、所謂代理商等の場合におけるように原告会社と対等の関係に立ち独立の権原に基づいて原告会社のためにセメント販売活動に従事したものでないことは勿論、業務の性質上特別に高度の専門的技能と自由活動にまたねばならぬ為に当然に使用者の指揮命令に親まぬものと考えられる委任請負等の非従属的使用関係にあるものでもないからである。
 〔労働契約―賠償予定〕
 原告は第一次的請求として被告Yは別紙差入書の契約条項第四項第八項所定の損害賠償額を予定する契約に従って右未回収売掛代金相当額を原告に支払うべき義務があると主張するが、凡そ使用者は労働契約を以て損害賠償額を予定する契約をしてはならぬことは労働基準法第十六条の明定するところであって、右は同法第一条に掲げられた「労働条件は労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすものでなければならない」との根本理念を全うするために設けられた強行法規であると解さねばならぬ。従って別紙差入書の契約条項に基く原告会社と被告Y間の使用関係が、労働基準法の適用を受けるものである限りは右契約条項に基づく原告の請求は強行法規に反し失当であるとせねばならぬ。