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ID番号 00091
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 九州電力事件
争点
事案概要  委託検診契約に基づく電力会社の委託検診員が、検診カードの紛失、検診業務の不履行等を理由として、当該契約を解除されたので委託検診契約は労働契約であり、本件解雇は無効であるとして、被告会社の検診員としての地位確認および賃金支払を請求した事例。(請求棄却)
参照法条 労働基準法9条,89条1項3号
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 労働者の概念
労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 委託検針員
解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
裁判年月日 1975年2月25日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 617 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集26巻1号1頁/時報777号93頁/タイムズ328号338頁
審級関係 控訴審/00809/福岡高/昭53. 9.13/昭和50年(ネ)148号
評釈論文 国武輝久・労働判例223号25頁
判決理由  〔労働法の基本原則―労働者―労働者の概念〕
 原告と被告会社との本件委託検針契約が、労働契約であるか否か、したがって原告がいわゆる労働基準法の保護を受ける労働者であるか否かを判定するに当っては、単に右契約の形式や名目に限らず、原告ら委託検針員の業務すなわち労務提供の形態を実質的に考察して決しなければならない。労働基準法第九条は、事業主に使用される者で、その労働の対価の支払を受ける者をもって労働者としていて、事業主との契約関係が民法上の雇傭契約であることを要件とはしていないから、労働基準法の労働者であるか否かは「事業主に使用される」か否か、結局その者が使用従属関係にあるか否かによって決められるべきである。そしてその労務提供の形態を実質的に考察して、使用従属関係が認められる場合には、たとえ契約の形式が請負、委任等の要素を含むものであっても、これを労働契約として把握し、その従属的地位にある当事者には、労働基準法上の労働者の地位を承認すべきものと解せられる。
 〔解雇―解雇事由―勤務成績不良・勤務態度〕
 以上のとおり、原告は昭和四三年同四四年の二回にわたり、検針員としての職務上の義務に違反し、その都度始末書を提出し、特に第二回目の始末書においては、今後再び不都合があった時は、契約を解除されても異議はないとまで誓約しておきながら、今回またもその本来的業務である検針を一部怠って定例日制を一部崩し、被告会社の業務の円滑な遂行を妨げたものであるから、これを理由として、委託検針契約第八条一号によりなした本件解雇は、正当な理由あるものとして是認することができる。
 〔労基法の基本原則―労働者―委託検針員〕
 1 被告会社の委託検針員を採用する過程(複数の希望者の応募、担当者による面接、採用後の臨時検針員制等)は、一般の企業における社員の採用過程と実態において変るところがなく、被告会社に一方的に採否の決定権があり、応募者としては、その決定を待つ以外にはなく、すでにこの段階において、両者は対等の当事者というにはほど遠い立場にあるとみられる。
 2 また、契約の最も重要な内容である検針日、検針地区、検針枚数、手数料額等も、被告会社の一方的な決定事項であって、原告ら検針員は、これらを包括的に承諾するか否かを選択するほかはなく、契約内容について個別的、具体的に交渉し、自己の希望にしたがいその改変を求める余地はない。
 3 さらにまた、検針業務遂行の過程においても、原告らが自主的に決定しうる事項は、前記のような検針現場への行き方とか検針順序などの僅かな点に限られ、検針方法、検針日、検針地区、検針枚数等の本質的な事項はすべて会社の定めるところであって、検針員にはいわゆる自由裁量の余地は乏しい。
 4 業務の代替性についても、検針員の家族らがいわゆる代行検針に従事することは、事実上極めて困難であって、現実にも殆どなされていないのであるから、観念的には代替性があると言い得ても、その実体に乏しいというほかはない。
 5 就労時間には何らの定めがないというものの、前記のような事実上の制約があって、一般の従業員(社員)とほぼ同様に、少くとも七ないし八時間業務に拘束されることとなる。また、病気の場合の診断書提出や、業務に支障のある場合の会社への連絡を義務づけられることにより、被告会社の一種の監督に服しているとみることもできる。
 6 収入面においても、前記のように、検針枚数及び手数料単価が一定していることにより、毎月の手数料収入は殆ど定額化されて一種の固定給的な性格をおび、かつその支給日も毎月一定しており、一般従業員の受ける賃金とさして変りのない実情にある。
 7 委託検針員のうち多数の者は、前記労働組合を結成し、労働条件の改善を求めて被告会社と交渉し、時には団体行動にも出るなどしてきたが、右は以上に述べたような検針員の従属的、労働者的な立場に由来するものであり、その故に労組法上の組合資格の認定も受け、被告会社も交渉団体としてこれを承認しているものと考えられる。
 以上のような諸点を総合考慮すると、原告が被告会社と対等の地位に立つ事業主体として独立に検針業務を請負うものとみることは相当でなく、むしろ被告会社に従属し、その指揮監督下において労務を提供する関係すなわち使用従属関係にあるとみられるから、たとえ原被告間の契約の形式が準委任ないしは請負契約に類似のものであるとしても、その実質においては、労働契約であり、原告は、労働基準法上の労働者の地位を有するものと認めるのが相当である。