全 情 報

ID番号 00127
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本データ・ビジネス事件
争点
事案概要  甲、乙両会社の業務請負契約により、甲社に雇用されたまま乙社に派遣されていたキーパンチャーらが、派遣終了後に解雇されたので、乙社の従業員としての地位保全等の仮処分を申請した事例。(申請、一部認容、一部却下)
参照法条 労働基準法9条,10条,19条,89条1項3号
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 派遣労働者・社外工
労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 派遣先会社
解雇(民事) / 解雇事由 / 就業規則所定の解雇事由の意義
裁判年月日 1976年6月17日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和49年 (ヨ) 3756 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働民例集27巻3・4合併号272頁
審級関係
評釈論文 矢邊學・労働判例263号4頁
判決理由  〔労基法の基本原則―労働者―派遣労働者・社外工〕
 〔労基法の基本原則―使用者―派遣先会社〕
 以上(一)ないし(三)において認定したような事実関係を前提として考えるならば、申請人らが、作業実施等の面においてある程度A株式会社側の指揮に服していたことは否定しえないとしても、B株式会社の支配関係を全く離れて、直接A株式会社の指揮・命令の下に拘束を受けて就労する状態にあったもの、つまり、A株式会社と申請人らとの間に事実上の使用従属関係が成立するにいたっていたとまで認めることは困難であるといわざるをえない。のみならず、B株式会社の存在が職業安定法四四条を故意に潜脱するための偽装的なもので、全く名目的なものにすぎないとか、あるいは、B株式会社が独立の企業としての性格を失ってA株式会社の企業組織に組み入れられてしまい、実質上A株式会社の労務担当の職制にすぎなくなっていると認めることもできず、しかも他に、直接A株式会社と申請人らとの間に労働契約が黙示的に締結されたことを認むべき事情は見当らないのである。
 さらに、右認定の事実関係からすれば、会社であるB株式会社の法人格が全く形骸にすぎず、B株式会社とA株式会社とが実質的に同一であるとか、A株式会社がB株式会社を意のままに道具として使用できる支配的地位にあり、かつ、違法不当な目的をもって会社形態を利用しているとの点についても、これを認めることはとうていできない。
 そうすると、黙示的労働契約の観点からも、また、法人格否認の法理によっても、直接A株式会社と申請人らとの間に全面的関係における労働契約関係の成立を認め、申請人らがA株式会社との間に明示的な労働契約を締結した者と法律上全く同一の従業員たるの地位を取得していたことを肯認することはできないといわざるをえない。
 〔労基法の基本原則―労働者―派遣労働者・社外工〕
 〔労基法の基本原則―使用者―派遣先会社〕
 労働契約は諾成・不要式の契約であるから、本件のごとく「業務請負契約」の請負人に雇用されている労働者が、その請負契約に基づいて、明示的労働契約関係のない注文者に対し事実上労務を供給している場合においても、その注文者との間において少くとも黙示的に労働契約が成立したものと認めうる余地のあることは、これを否定することができないであろう。ただその場合、黙示的にその成立が認められるべき契約関係は労働契約であるから、単に事実上の使用従属関係が存在するというだけでなく、経験則ないし一般社会通念上、一方労働者の側では注文者をみずからの使用者と認め、その指揮・命令に従って労務を供給する意思を有し、他方注文者の側ではその労務に対する報酬として直接当該労働者に対し賃金を支払う意思を有するものと推認するに足るだけの事情が存在するのでなければ、黙示的契約の成立を認めることができないことはいうまでもないところであって、したがって、たとえば請負人の存在が職業安定法四四条を故意に潜脱するための偽装的なもので、全く名目的なものにすぎないとか、請負人が独立の企業としての性格を失って注文者の企業組織に組み入れられてしまい、実質上注文者の労務担当の職制の一人にすぎなくなっているとかの事情がなければ、右のごとき黙示の労働契約の成立を認定することは困難といわなければならない。
 さらに、いわゆる法人格否認の法理によっても、「請負人」に雇傭される労働者と注文主との間に直接の労働契約関係の成立を認めることが理論上は可能であろう。すなわち、(一)会社である請負人の法人格が全く形骸にすぎず、注文主と請負人とが実質的に同一と認められる場合、(二)会社である請負人の法人格が法律の適用を回避するために濫用されている場合、つまり、注文者が会社である請負人を意のままに道具として使用できる支配的地位にあり、かつ、注文者による会社形態の利用が違法不当な目的に出ている場合には、会社である請負人の法人格を否認して直接注文者と労働者との間に労働契約関係の存在を認めることができるといってなんら差支えがないというべきである。
 なおこのほか、いわゆる事実的契約関係説によって請負人に雇傭されている労働者と注文者との間の直接の労働契約関係を根拠づけようとする考え方もありうる。すなわち、使用者と労働者との間に労務供給に関する合意が存在しない場合でも、労働者が一定の経営組織の中に組み込まれて事実上の就労関係の下に置かれれば、そこに事実的労働契約関係が成立するというのである。しかし、当裁判所はこのような考え方を採ることができない。けだし、労働契約も一つの債権契約であり、労働者と使用者との間の明示的もしくは黙示的合意によってはじめて成立するものであって、そのような合意もないのに事実上の就労関係への組み入れのみによって労働契約関係が成立することを肯定すべき法理上の根拠を見出すことができないからである。
 〔解雇―解雇事由―就業規則の所定解雇事由の意義〕
 以上認定のような事実関係から本件解雇の効力について考えてみるに、B株式会社の就業規則五一条にいわゆる「やむをえない事業上の都合」とは要するに、従業員を解雇するもやむなしと客観的に認められるような相当な事業上の事由を指すものと解すべきところ、右解雇当時、折柄の不況も手伝ってB株式会社の受託業務が減少の傾向を示していたことは右にみたとおりであるけれども、前認定のごときB株式会社の事業の形態からすれば、取引先の数や受託業務の量の増減することや、それに伴って一定期間、自社の従業員たるキーパンチャーの仕事がなくなるような事態が起こりうることは容易に予測されるところであり、また、職業安定法四四条を故意に潜脱するための偽装的な事業体でない以上、そのような事態のありうることを前提として運営さるべきは当然であるから、単に受託業務が減少の傾向を示し、差し当って申請人らキーパンチャーにさせる仕事がないというだけのことで、特段の措置も講じないまま、仕事のなくなった従業員をわずか二ケ月で解雇するがごときは、解雇するもやむなしと客観的に認められるような相当な事業上の事由による解雇として許容されうるものとはとうてい認めることができないのである。
 のみならず、申請人らが当時業務上の疾病に罹患して加療中であったことは、右の事実関係からこれを推認するに難くないところである。もっとも、申請人らは当時、右業務上の疾病の療養のために休養していたわけではないから、右の解雇が直接労基法一九条に違反するものということはできないけれども、右労基法の規定は、使用者に労働者の生命・健康に対する配慮義務があり、負傷・疾病に基づく労働不能を理由とする解雇もその点から制限されることがありうることを当然の前提とするものであるから、たとえ右規定に直接に違反する解雇でなくとも、適当な経営上の措置や臨時労働力の雇用などの手当てを施すこともしないで、業務上の疾病治療中の労働者を極めて短期間のうちに解雇するようなことは、使用者の右配慮義務に違背するものとして、少くとも前記就業規則五一条にいわゆる「止むを得ない」の要件を充たさないものといわなければならない。
 そうだとすると、申請人らに対する前記解雇の意思表示は、同規則五一条所定の「止むを得ない事業上の都合」によるものでないのに、それによるものとしてなされたものであって、その効力を生ずるに由ないものといわざるをえない。