全 情 報

ID番号 00128
事件名 地位保全、金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 竹野屋商事・広瀬産業海運事件
争点
事案概要  傭船契約に基づいて業務に従事していた艀の船長らが、不況を理由として雇用主から解雇されたので、雇用主および傭船先に対して、従業員としての地位保全、賃金支払の仮処分を申請した事例。(申請一部認容、一部却下)
参照法条 労働基準法10条,20条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 傭船契約
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 賃金の計算方法
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 労基法20条違反の解雇の効力
裁判年月日 1976年12月9日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和51年 (ヨ) 499 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例267号29頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則―使用者―傭船契約〕
 右のような傭船契約に基づいて船長その他の船員が労務に従事する場合においても、傭船者と船長らとの間に使用従属関係、つまり傭船者の指揮命令の下で拘束を受けて就労する状態が現実に存在し、かつ、経験則ないし一般社会通念に照らして、船長らの側からは傭船者を自己の使用者と認めてその指揮命令に従って労務を供給する意思を有し、また、傭船者の側においては、船長らを直接自己の雇用する労働者としてこれに労務の報酬たる賃金を支払う意思を有していたものと推認するに足るだけの事情が存在するときには、傭船者と船長らとの間に黙示的に雇用契約関係が成立したものと認めざるをえないであろう。
 以上認定のような事実関係からすれば、申請人らがA会社の配船指示に従って港湾での貨物運送の作業に従事していたことは明らかであるけれども、同会社との間に事実上の使用従属関係が成立していたものとみることはできず、また、A会社において申請人らを直接自己の雇用する労働者としてこれに賃金を支払う意思を有していたものと推認するに足りる事情が存在するものということもできないから、申請人らとA会社との間に黙示的に労働契約が成立していたものとは認められないというよりほかはない。
〔賃金―賃金請求権の発生―賃金の計算方法〕
 被申請人Y会社は、申請人らは同三〇年八月以降本件艀に乗船して就労していないのであるから、乗船したことを前提に支給される乗船手当、出勤手当、時間外手当等を控除したものをもって賃金額とすべきであると主張するけれども、もともと本件の場合のごとく、労働者において現実に就労していないのにかかわらず賃金請求権を失わないのは、使用者側にその責に帰すべき事由による労務の受領遅滞があるからにほかならないというべきところ(民法五三六条二項本文)、その場合に労働者が失わないとされる反対給付とは、労務の提供がなされておれば給付されたであろう対価を指すものと解すべきであって、これを本件の場合についていうならば、申請人らが本件艀の船長として実際に就労していたならば支給されたであろう一切の賃金がこれに当るとみるのが相当であるから、就労を前提とする乗船手当、出勤手当その他の手当も、申請人らに支給さるべき賃金の額からこれを控除すべきものではない。
〔解雇―整理解雇―整理解雇の必要性〕
 以上認定のような事実関係からすると、申請人らに対する本件解雇は、Y会社がその事業の一部(本業の鋼材販売業は営業不振のため昭和四六年頃から中絶)である本件艀を他に傭船に出して収益をあげる営業行為を事実上廃止せざるをえなくなり、Y会社として申請人らに艀の船長の仕事を与えることができなくなってしまったことによるものであって(申請人らが前記組合の組合員であることを理由とするものであるとは認められない)、経営上やむをえない措置であったといわざるをえない。もっとも、この点につき申請人らは、Y会社としてはA会社に対し、傭船契約に基づいてもっと本件艀を稼働させるよう強く要求すべきであったと主張しているけれども、右傭船契約が前記認定のような内容のものである以上、Y会社としては法律上A会社に対しそのような要求をなしうる立場にあったものとは認められず、また、かりにそのような立場にあったとして、それを実行しないまま右のような状況に立ち到ったものとしても、そのために右解雇が公序良俗に違反するものとして無効になるとまで認めることは困難である。そうすると、本件解雇は客観的にみて相当と認められる事由に基づくものであって有効になされたものというべきである。
〔解雇―労基法二〇条違反の解雇の効力〕
 申請人らに対する本件解雇の通知がなされたのが昭和五〇年一二月二四日であり、かつ、その内容が同年一二月末日限り解雇するというものであったことは前記のとおりであるから、右解雇の通知は、労働基準法二〇条所定の予告期間をおかず、また予告手当の支払をしないでなされたものであるといわなければならない。しかも、天災事変その他これに類するようなやむを得ない事由のために事業の継続が不可能となり、解雇予告の余裕もなかったという場合でもなく、その点について所轄労働基準監督署長の認定も受けていないのであるから、右解雇の意思表示が同年一二月末日限り効力を生じたものとすることはできず、通知後同条所定の三〇日間の期間を経過したとき、すなわち同五一年一月二三日の終了とともにその効力を生ずるにいたったものと解するのが相当である(最高裁判所昭和三五年三月一一日第二小法廷判決、民集一四巻三号四〇三頁参照)。