全 情 報

ID番号 00192
事件名 地位保全仮処分控訴事件
いわゆる事件名 静岡宇部コンクリート工業事件
争点
事案概要  コンクリート・ミキサー車の操作を誤った同車の運転手に対する本採用拒否は解雇権の濫用にはあたらないとした事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項,627条
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
裁判年月日 1973年3月23日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ネ) 179 
裁判結果 棄却(確定)
出典 高裁民集26巻2号144頁/時報703号95頁/東高民時報24巻3号52頁/タイムズ299号311頁
審級関係 一審/静岡地/昭45.12.22/昭和45年(ヨ)96号
評釈論文
判決理由  一般に使用者が労働者を雇傭するに際して、一定期間(二・三か月ないし六か月を通例とする。)の試用期間を置く趣旨は、その間に被用者を実際に働かせてみて、その業務適性、労働能力等をいっそう正確に判断して被用者を引き続き雇傭するかどうかを決定することとする反面において、適格性を欠くと認める者をできる限り容易にかつ速やかに企業から排除することができるようにすることにあるものと認められる。従って、試用期間の定めのある労働契約は、特段の事情のない限り、その締結の日に期限の定めのない労働契約として成立するが、ただ試用期間中は前記のようなこれを置く趣旨に鑑み、右適格性等の判定に当たって使用者に就業規則等に定められた解雇事由や解雇手続等に必ずしも拘束されない、いっそう広い裁量・判断権(かような広い裁量・判断権を含む解雇権)が留保されているものと解するのが相当である。
 (中 略)
 このように、控訴人が下車に際してスイッチを切ったことも、また羽根の回転が停止しているのを認めてからの処置を誤ったことも、ともにその甚しい不注意であると認められる以上、控訴人はこの点においてすでにコンクリートミキサー車の運転手としての能力及び適格性に欠けるところがあると一応いわざるを得ず、前述のように試用期間中にある被用者の業務適格性の判定について使用者に広い裁量・判断権が留保されていることに鑑みれば、なおさら、被控訴会社が右二つの点で控訴人に業務適格性がないと判断したことが不相当であるとは到底いえないものと認めざるをえない。
 (中 略)
 控訴人は、試用期間中にある者として、本件事故を惹起したことだけで、すでに、コンクリートミキサー車の運転手として能力及び適格性を欠くとの評価を受けることはやむをえないところであり、控訴人に対する本採用の拒否すなわち解雇の意思表示は、正当の事由に基づくものといわざるをえず、また、解雇の手続の上でも、不当の点はないものというべきである。従って、控訴人に対する本採用の拒否、すなわち解雇の意思表示が権利の濫用であるとの控訴人の主張は、採用できない。