全 情 報

ID番号 00195
事件名 従業員地位保全及び賃金支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 常磐生コン事件
争点
事案概要  試用採用された労働者が、試用期間中に勤務成績不良を理由として、就業規則に基づいて解雇されたので、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める、および賃金支払の仮処分を申請した事例。(申請認容)
参照法条 労働基準法21条
民法1条3項
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1975年3月7日
裁判所名 福島地いわき支
裁判形式 決定
事件番号 昭和49年 (ヨ) 52 
裁判結果 認容(抗告)
出典 時報782号98頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労働契約―試用期間―法的性質〕
 いわゆる試用期間とは試用者として雇用された従業員の作業能力・職業能力を現場で試し、その正規の従業員としての適格性を判断するためにもうけられた実験期間であるが、ここに試用とは試用期間中に従業員として適格性を有しないと判定され本採用を拒否されることを解除条件とする期間の定めのない雇用契約であると解するのが相当であり、よって、試用期間中の労働関係は正規の従業員のそれの如く確定的でないにしても、実質は正規の従業員と同じく取り扱われなくてはならない。労働基準法が二一条本文において、原則として使用者が労働者を解雇しようとする場合は少くとも二〇日前に解雇の予告をしなくてはならぬとする同法二〇条一項の規定を「左の各号の一に該当する労働者については適用しない」と定め、四号において試用期間中の者を掲げているものの、同法二一条但書において、一四日を超えて引き続き使用されている試用期間中の者を除外し、一四日以内であれば認められる使用者からの一方的解雇を許容していないことは前記解釈を裏付けるものである。つまり、それは同法が雇用関係安定の理念に立脚し試用従業員をその労働関係の安易な解消から保護すべき試用期間が一四日を超えた場合は解雇に関する限り試用従業員も正規の従業員と評価していることを物語るものである。
 ただ、契約自由の原則は試用契約にも適用があり一概に直ちにその旨断定できないので、本件におけるその法的性質について検討するに、《証拠略》を綜合すると、本採用前後を通じその賃金作業等差異ないことが一応認められ、かかる事実からすると、本件試用契約も前記の如く申請人が従業員として不適格と判定されることを解除条件とする雇用契約であると解するが相当であり、申請人は会社の正規の従業員と同じ法的地位にあるものといわなくてはならず、試用期間中の従業員である故をもって安易な解雇を許すものではなく、申請人の従業員としての適格性を疑わしめる合理的根拠がなくてはならない。
 〔解雇―解雇権の濫用〕
 労働者が会社からの収入によりその生計を維持している場合に解雇されその職場から放逐されることはその生活の資金源を奪われ、労働者に生活の危機をもたらすものであるから、労働者の生存権への不必要な侵害を避けるべく労働者の解雇は特に慎重を極めねばならず、勤務成績不良の態様、情状が重大且悪質であり、解雇以外に処分が考えられず、その生活の資を奪い失わしめても止むを得ないと社会通念上是認される客観的な妥当性を有していなくてはならず、就業規則適用のうえでは当然かかる点を考慮し慎重になされるべきであり、そこに客観的に是認される妥当性を欠く時は解雇権の濫用というべきであるところ、本件申請人について考察するに、確かに申請人には交通渋滞、天候等も考慮し少し早く家を出れば遅刻は免れえたものであり、それは現今の経済事情下において甘い人事管理をなくそうとする会社に責任感欠如と映ずるは当然であり、各疎明資料によれば他の従業員に比較して遅刻が多く、労働者としての申請人には反省すべき点が存在するものの、前記の如くその態様、情状、他に与えた影響等は重大且悪質とはいえず、又、各疎明資料を検討するも、申請人に対し解雇以外の軽い処分(例えば、始末書提出。なお、前記認定の如く始末書提出の請求はおろか注意さえも会社はしていない。)では到底改善される見込みがないというが如き特別の事情も認められず、解雇処分をもって臨むに値する程度の従業員としての不適格性が存するとは判定できず、そこに客観的妥当性は存在せず、本件解雇は解雇権の行使がその限度を超えたというべきであり、解雇権の濫用にあたり無効といわざるをえない。
 〔解雇―解雇の承認・失効〕
 申請人が昭和四九年一〇月一九日退職に依り厚生年金、失業保険証書を受け取った旨の書面に署名捺印したことは当事者間に争いがないが(中 略)。
 前記認定の如き本件解雇後の申請人の行動、当該書面に署名捺印した経緯、事情およびその際の申請人の言動、その後の申請人の言動等から判断すると、申請人が本件解雇を争う意思を放棄して本件解雇を承認したものとは到底いえないから、会社の主張は当を得ないものである。更に、解雇とは会社の一方的な意思表示で効力を発生する、いわゆる形成権の行使であるところ、前記の如く本件解雇は解雇権の濫用により無効なものであるから、無効の解雇を承認しても無効な形成権の行使は決して有効となるものではなく、又、申請人の当該署名捺印は前記認定の如き事情からすれば申請人において後日本件解雇を争わないとの特別の意味を有するものとも解釈できないものであるから、これらの点から考えても会社の主張は失当である。