全 情 報

ID番号 00234
事件名 身分存続確認・賃金請求事件
いわゆる事件名 大阪市立教職員事件
争点
事案概要  市教育委員会と市教職員組合連合協議会との間で締結された覚書により導入された校務員および作業員(地方公務員法五七条の言う単純な労務に雇用される者)の定年制により校務員を退職させられた者が、校務員たる地位の確認および賃金の支払を求めた事例。(請求認容)
参照法条 地方公務員法27条,28条,29条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 賃金請求権と時効
退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 1978年5月24日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ワ) 4793 
昭和49年 (ワ) 1549 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働民例集29巻3号296頁/時報890号51頁/タイムズ363号152頁/労働判例299号20頁
審級関係 控訴審/01676/大阪高/昭58. 7.29/昭和53年(ネ)922号
評釈論文 阿部泰隆・昭和53年度重要判例解説〔ジュリスト693号〕56頁/高村正彦・公務員関係判例研究20号23頁/佐藤昭夫・労働判例百選<第四版>〔別冊ジュリスト72号〕50頁/山田省三・労働判例305号4頁/山内一夫・都市問題研究30巻12号103頁/深山喜一郎・判例評論239号36頁/浜川清・ジュリスト675号104頁/林修三・地方財務292号8頁
判決理由  〔賃金―賃金支払の原則―賃金請求権と時効〕
 一般に労働契約上の労働者たる地位は、これと一体不可分として生じ、かつその消長を共にする賃金等の請求権をも包摂する包括的なものであるから、右の地位の確認を求める訴は右のような賃金等の請求権を包摂する包括的な法律関係たる地位の確認を求めるものであり、従って、訴訟法的には右訴が当然に賃金等の請求権を訴訟物とするものではないにしても、右地位に包摂される右のような賃金等の請求権についてもその権利を主張し、ないしは履行を求める意思を含むことは明確というべきである。殊に、賃金請求権は労働に対する対価、報酬として正に労働者としての地位の確認を求める利益の中核をなすものであり、労働契約上の地位確認の訴は右請求権を確保するためにあるといっても過言ではない。
 このように、労働契約上の地位確認の訴には、労働者たる原告において右地位に伴って生ずる賃金等の請求権についての主張ないし履行の意思が明確に表示されているのであるから、消滅時効制度の趣旨からみて、右訴の提起は賃金請求権についても裁判上の請求に準じてその時効を中断させる効果があるものと解するのが相当である。
 (中 略)
 (二) 同原告らが本件失職をすることなくその地位を有していれば、その後も別紙(四)給与明細表の(1)ないし(5)記載のとおり昇給、昇格し、期末、勤勉手当を受け、死亡退職金につき増額支給決定を受け得たであろうことは前記三認定のとおりであるから、同原告らの得べかりし利益は請求原因4記載の金員と一致すべきところ、原告らはそのうち前記三において賃金性を認め得ない部分に限って予備的に請求しているのであり、従って、右部分相当損害金については国賠法に基づく損害賠償として被告に支払義務があるものというべきである
 2 進んで、被告の主張及び抗弁6(二)につき判断するに、右の賠償請求権は、校務員たる地位とこれに包摂される賃金等の請求権に由来し、かつ右賃金等の請求権として請求していた一部につき予備的に新たな法的構成を追加したにすぎないもので、その実態に変りはなく、従って、前記三4と同様の理由により、右賠償請求権についても消滅時効によって消滅していないものというべきである。
 〔退職―定年・再雇用〕
 (三) そこで、地公法と定年制との関係についてみるに、地公法は職員の身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件を法定する立場をとっているが、同法がもともと職員の利益を保護する性格をも有していることなどからみて(同法一条参照)右法定主義は職員の利益を保障する趣旨で規定されていると解すべきことは最高裁判所の判決が示すとおりであり(昭和四八年四月二五日刑集二七巻四号五四七頁、同五一年五月二一日刑集三〇巻五号一一七八頁、同五二年五月四日刑集三一巻三号一八二頁)、また、右各判決によれば、職員が右身分保障を享受していることが同時にその労働基本権制約に対する代償措置の一つとして機能するものと指摘されていることなどに鑑みれば、職員の不利益処分を規定する地公法二七条ないし二九条の規定は職員の利益保護の方向でその要件を厳格に解釈すべきものというべきである。従って、同法はその第三章職員に適用される基準第五節分限及び懲戒において、失職を含め職員の不利益処分のすべてを網ら、明定し、これによりその身分を保障しているものと解すべく、これを職員の離職に限っていえば、同法は二七条二項、二八条一項により分限免職とその事由を、二七条三項、二九条一項により懲戒免職とその事由を、二八条四項により当然失職とその事由をそれぞれ規定しているが、これは職員の離職事由のみならずその種類をも右の三種に限定し、それ以外の離職は職員個々人の意に反しない免職のみ認めているものというべきである。更に、同法は職員の採用については条件附採用制度をとり(二二条一項)、臨時的任用について特に規定を設けその要件、期間等を限定していること(同条二、五項)などからみて、同法は定年制を禁止し、職員の任用を無期限のものとする建前をとっているものと解すべきである(最高裁判所昭和三八年四月二日判決、民集一七巻三号四三五頁参照)。
 (中 略)
 上来説示するところから明らかな如く、定年制は地公法の明定する失職ないし免職事由に該当しないものであるから、同法二七条二項の制約に服し、かつ個々の職員の意に反する限り同条項に反する無効のものというべきである。なお、労働協約は法令より下位の法規範で、法令に抵触する限度で効力を有しないのであるから(地公労法八条ないし一〇条参照)、定年制の定めが労働協約であるか否かは右の結論に何ら影響を及ぼすものではない。現行法上、定年制の導入は法律の改正なくしてあり得ないのである。