全 情 報

ID番号 00238
事件名 定年確認等請求事件
いわゆる事件名 工学院大学事件
争点
事案概要  就業規則に新設された六七歳定年制規定の適用を受けて退職扱いとされた大学教授らが、本人の承諾のない就業規則の一方的不利益変更の効力は及ばないとして、慣行上の定年年齢まで教授として在職していたら支給されたであろう給与賞与、退職金等の支払を求めた事例。(請求棄却)
参照法条 労働基準法2章,89条,93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制
裁判年月日 1984年5月15日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和55年 (ワ) 4362 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1189号17頁/労働判例431号62頁
審級関係
評釈論文
判決理由  一般に、就業規則は、経営主体が一方的に作成し、かつ、これを変更することができることになっているが、新たな就業規則の作成または変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されない。しかしながら、就業規則は、労働条件を集合的に処理し、これを統一的かつ画一的に決定することにその意義を有するものであるから、当該就業規則の条項が合理的なものであるかぎり、右の原則にもかかわらず、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきである(最高裁昭和四三年一二月二五日大法廷判決民集二二巻一三号三四五九頁参照)。そして、定年制自体は一般的にいって不合理な制度ということはできないから、本件定年規程が既得権の侵害にあたるか、あるいは不利益な労働条件といいうるかをまず検討し、更に、同規程の内容が合理性を有するものであるかどうかを検討する。
 (中 略)
 本件定年規程の新設により、実質的にみて、原告らの労働条件は不利益に変更されるに至ったものと認めることができる。そこで、本件定年規程の新設されるに至った経緯及び規程の合理性等についてみるに、(証拠略)を総合すれば、本件定年規程は理事会において突如として制定されたものではなく、昭和四四年以降、教授会でも将来定年制を設けるのが相当であるとの前提で七五才、さらには七三才の勇退の決議が毎年くり返しなされていた状況の下で、理事会が、教授会の正式の審議にこそ付さなかったが、定年規程案を教授会の場で説明し、これに対する各教授の意見をアンケート形式で聴取したうえで、制定したものであり、同案に対しては定年を七〇才位にすべきだとの二、三の教授からの反対意見はみられたが、多くの教授は特に反対意見を述べていないこと、本件定年規程で新たに設けられた六七才という定年は、定年制を有する他の私立大学の事例を検討してその平均的年齢をもって定めたものであり、したがって、同種の職種の世間一般の定年に比較して低きに失するものとはいえないことがそれぞれ認められ、これら認定を覆すに足りる証拠はなく、また前認定のとおり、長期にわたる経過措置が置かれており、本件定年規程を一律に適用することによって生ずる高齢者に対する苛酷な結果を緩和する措置がとられていることなどを総合勘案すれば、本件定年規程は必ずしも不合理なものということはできず、原告らは、これに同意しないことを理由として、本件定年規程の適用を拒否することはできないものといわなければならない。