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ID番号 00248
事件名 懲戒処分無効確認請求事件
いわゆる事件名 富士重工事件
争点
事案概要  他の従業員の就業規則違反の行為についての調査に協力しなかったことを理由になされた譴責処分の無効確認が求められた事例。
参照法条 労働基準法2章,89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 思想・信条の調査、調査協力義務
裁判年月日 1977年12月13日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (オ) 687 
裁判結果 破棄自判
出典 民集31巻7号1037頁/時報873号12頁/タイムズ357号133頁/労働判例287号7頁/労経速報967号20頁/裁判所時報732号1頁/裁判集民122号391頁
審級関係 控訴審/03518/東京高/昭49. 4.26/昭和47年(ネ)3075号
評釈論文 阿久沢亀夫・労働判例287号4頁/吉田美喜夫・日本労働法学会誌52号104頁/橋詰洋三・判例評論253号33頁/橋詰洋三・労働判例百選<第四版>〔別冊ジュリスト72号〕34頁/窪田隼人・民商法雑誌80巻3号350頁/江見弘武・法曹時報33巻5号1553頁/坂本重雄・法律時報50巻4号57頁/秋田成就ほか・労働判例308号4頁/諏訪康雄・昭和52年度重要判例解説〔ジュリスト666号〕198頁/西谷敏・ジュリスト659号78頁/萩沢清彦・判例タイムズ357号101頁/萩沢清彦・判例タイムズ367号44頁/林修三・時の法令1008号50頁/和田肇・ジュリスト678号152頁
判決理由  そもそも、企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであり、企業は、この企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもって一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為があった場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができることは、当然のことといわなければならない。しかしながら、企業が右のように企業秩序違反事件について調査をすることができるということから直ちに、労働者が、これに対応して、いつ、いかなる場合にも、当然に、企業の行う右調査に協力すべき義務を負っているものと解することはできない。けだし、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものということはできないからである。そして、右の観点に立って考えれば、当該労働者が他の労働者に対する指導、監督ないし企業秩序の維持などを職責とする者であって、右調査に協力することがその職務の内容となっている場合には、右調査に協力することは労働契約上の基本的義務である労務提供義務の履行そのものであるから、右調査に協力すべき義務を負うものといわなければならないが、右以外の場合には、調査対象である違反行為の性質、内容、当該労働者の右違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、右調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められない限り、右調査協力義務を負うことはないものと解するが、相当である。
 これを本件についてみると、本件調査の状況は前記のとおりであるが、右調査に協力すべきことが上告人の職務内容となっていたことは、原審の認定しないところである。また、右調査は主としてAの就業規則違反の事実関係を更に明確に把握することを目的としてされたものであるというのであるが、上告人に対する具体的な質問事項の内容、殊に上告人が返答を拒んだ質問事項のうち主要な部分は、Aが就業中の上告人に対しハンカチの作成を依頼したり、原水爆禁止の署名を求めたりして上告人の職務執行を妨害しなかったかどうか等上告人の職務執行との関連においてAの就業規則違反の事実を具体的に聞き出そうとするのではなく、上告人その他被上告会社の従業員の一部が行っていた原水爆禁止運動の組織、活動状況等を聞き出そうとしたものであり、また、その際併せて質問された上告人のBらに対するハンカチ作成依頼の件も、被上告会社では既にそれが休憩時間中にされたものであることを了知していたというのであるから、上告人が右調査に協力することが上告人の労務提供義務の履行にとって必要かつ合理的であったとはいまだ認めがたいものといわなければならない。
 したがって、以上のような事実関係のもとにおいては、上告人には本件調査に協力すべき義務はないものというべく、右義務のあることを前提としてされた本件懲戒処分は違法無効といわなければならない。