全 情 報

ID番号 00249
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 中央公論社事件
争点
事案概要  使用者のなした通常解雇及び懲戒解雇につき、右解雇が正当な争議行為に対する無効なものである等として、地位の保全を求めた仮処分事件。(却下)
参照法条 労働基準法2章,89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 自宅待機命令・出勤停止命令
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
裁判年月日 1979年3月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ヨ) 2371 
昭和47年 (ヨ) 2394 
昭和48年 (ヨ) 2231 
昭和48年 (ヨ) 2268 
昭和48年 (ヨ) 2288 
裁判結果 却下(控訴)
出典 時報935号113頁/労経速報1010号3頁/労働判例317号26頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労働契約―労働契約上の権利義務―自宅待機命令・出勤停止命令〕
 本件自宅待機命令は申請人五名に対する業務命令であるが、待機期間中の賃金全額を支給するものとして発せられ、現に右期間中の賃金は支給されているから、申請人五名は雇用契約上の賃金債権を失わず、この点では全く不利益を受けていないし、申請人五名の職種は就労請求権が肯定されるものでもないから右命令により申請人五名が会社における就労を拒まれたからといって、そのことから直ちに申請人五名が懲罰的扱いを受けたことになるものでもない。本件自宅待機命令の趣旨は、申請人五名に対し会社就業時間中自宅その他会社から連絡可能な場所に待機し会社から出社を命ぜられれば直ちにこれに応じる態勢を整えておくことを命じたことにあると解せられるが、使用者がその従業員に対し労務提供の待機を命じ得るのは雇用契約上当然であるし、右命令は自宅その他の場所において待機を命ずるのみで就労を命ずるものではなく、謹慎、組合活動の禁止を命ずるなどして雇用契約と無関係な事項につき申請人五名の行動を制約するものでもないから、雇用契約の本旨にもとるものではない。このような観点に立てば、就業規則に定めがないとはいえ、本件自宅待機命令は雇用契約上の労務指揮権に基づく適法な業務命令と認めることができるのであって、申請人らが主張するように就業規則に定めのない懲戒処分としての性格を有するものではない。
 更に同命令の妥当性について検討しても申請人五名については移転作業妨害行為により懲戒処分を受ける蓋然性が高かったといえるし、その後の申請人五名の会社のなした事実の確認に対する対応、態度等に鑑みれば、懲戒処分決定までの間、右五名を通常の勤務態勢におくことは職場規律のうえで妥当でないのみか、更に移転問題に関して不測の行動に出ることも予想されたところであるから会社には申請人五名に自宅待機を命ずる業務上の必要性があったということができる。従ってこれに従わなかった申請人五名の行動は職場規律を乱したと評価されてもやむを得ないといわねばならない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―暴力・暴行・暴言〕
 申請人X1、同X2を除くその余の申請人らの出社妨害、職制ら取り囲み行為等とその際の暴力行為並びに執拗なまでのビラ貼付等の繰返しは一般に許容される争議行為としての平和的説得の範囲を逸脱する行為であって、(九)、5のとおり申請人らに反省を求め、実質上除名に等しい組合大会決議がなされていたことを併せ考えると申請人X3、同X4に対して就業規則四一条三号、五号、六号を適用して懲戒休職二か月の処分をしたのもそれ相当の処分ということができる。
 (中 略)
 申請人X3、同X4のほか解雇された申請人五名は出社妨害、職制取り囲み等を繰返し、申請人X4は一一月二一日、昭和四八年一月二一日各懲戒休職二か月、同年三月二二日譴責(始末書提出を含む。)を受けたが右各処分は適用された各就業規則条項に該当する事由があるからそれ相当の処分ということができるし、右譴責処分後の就労命令拒否にもなんら正当な理由を見出し得ないから、従前の処分歴を勘案すれば就業規則四一条六号により懲戒解雇されてもやむを得ないものというべきである。また、申請人X3は一一月二一日に懲戒休職二か月昭和四八年一月二二日に譴責処分(始末書提出を含む。)を受けたあと正当な理由なく就労命令拒否を続け就業規則四一条六号により懲戒解雇されるに至ったもので、いずれも著しく不当な措置とはいいがたい。
 (中 略)
 申請人X1、同X2は八月二四日以降昭和四八年二月六日までの長期にわたってタイムカードを押しながら業務に就こうとせず、再三の会社職制らの注意にも応じようとしなかったのであってその行為の態様がたんなる不就労にとどまり他に懲戒処分を受けていたものではないとはいえ、その行為の正当性の根拠として主張する申請人X5、同X2に対する解雇の不当性の主張自体が採用できないことは前示のとおりであり、また会社が解雇等処分事由を明らかにしなかったとの主張についても処分理由の明示自体は解雇等のための有効要件とは認めがたく、更に(七)、2、(三)のとおり組合執行委員会が申請人らに呼びかけ会社処分についての協議等、意思の疎通を図ろうとしたのに申請人側においてこれを拒否したのであるから組合が申請人らの処分に対応しなかったことに抗議したとの主張は理由がないところであって(なお会社側が暴力行為をしたとの主張についての判断、評価は後記のとおりである。)、これらを総合すると申請人X1らの不就労につきこれを正当ならしめる理由を見出すことはできないから、会社が申請人X1、同X2に対し、就業規則四一条六号に該当するとして懲戒解雇したのは相当ということができる。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―業務妨害〕
 申請人五名による部会議その他の業務妨害、就業命令拒否、退去命令拒否、ステッカーの貼付、原稿提出の拒否等の行為はいずれも会社内における職場秩序を乱すもので、反覆してなされたこれらの行為に対し会社主張の就業規則の条項を適用してなされた四・二四、五・二四、六・二四、七・二四の各処分(懲戒休職)はいずれも有効であると認めることができる。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―業務妨害〕
 三・一一行動は、前記のように組合との関係において正規の手順をふんだうえで行なわれた会社の移転作業に対し平和的手段の域をこえて実力によりこれを阻止し妨害する行為と認めるほかはない。従って、会社が右申請人両名に対し、就業規則四一条三号の「社業に支障を来させたとき」六号の「社内における風紀、秩序を紊したとき」に該当するとして一か月の懲戒休職処分をしたのは相当ということができる。
 更に申請人X6、同X7、同X8の三・一一行動についても妨害に至る経過に照らせば実質上申請人X5、同X2と共謀して移転作業を妨害したものであるが、その行為の態様は助勢にとどまったと評価しうるから会社が右三名に対して就業規則四一条六号に該当するとして譴責とし、始末書の提出を命じるにとどめたのもそれ相当の処分ということができる。