全 情 報

ID番号 00257
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 関西電力事件
争点
事案概要  七〇年安保改訂時の騒乱状態を予測し、企業防衛の立場から組合役員、共産党員等の経歴を有する従業員の行動を職場内外で監視したり、職場内で孤立させる政策に基づき、会社によりその対象とされた従業員らが、思想、信条の自由、名誉、人格に対する侵害があったとして慰藉料を請求した事例。(一部認容)
参照法条 労働基準法3条
日本国憲法14条
民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 思想・信条の調査、調査協力義務
裁判年月日 1984年5月18日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 1180 
裁判結果 一部認容
出典 労働民例集35巻3・4合併号301頁/時報1135号140頁/労働判例433号43頁/労経速報1196号17頁
審級関係
評釈論文
判決理由  私企業においても、使用者は労働者の思想、信条の自由をみだりに侵してはならず、もし、使用者が経営秩序の維持、生産性向上などの合理的理由もなく、労働者の思想、信条の自由を侵害するときは、わが国の公序に反する違法な行為として評価すべきこと、かつ、右経営秩序の維持、生産性向上を理由とする場合にも、これを阻害する抽象的危険では足りず、現実の具体的危険が認められ、その手段、方法においても相当である場合に限定されるべきこと、先に当裁判所の基本的見解として述べたとおりである。
 (中 略)
 上記認定の事実に照らすと、原告らに対する監視として、被告会社の職制自ら又は従業員に指示して原告らを職場の内外で監視態勢を継続し、尾行したり、あるいは、外部からくる電話の相手方を調査確認するとか、ロッカーを無断開扉して原告ら個人所有の手帳を写真に撮影するなどの各行為、また、原告らの孤立化政策として、従業員に働きかけて原告らの孤立化政策として、従業員に働きかけて原告らとの接触、交際を遮断し、職場における文体行事からも原告らを排除するとか、週番から除外し、原告らの所属する旅行会や写真クラブを解散にもちこむなどして原告らを職場で孤立させ、いわゆる職場八分を実現しようとしたものであり、しかも、これらの監視、調査、孤立化の実践結果を労務管理懇談会の討議素材として使用したものであって、前記認定の各行為(理由四の3(一)ないし(五))は、原告らの思想、信条の自由を侵害し、職場における自由な人間関係の形成を阻害するとともに、原告らの名誉を毀損し、その人格的評価を低下せしめたものである。
 他方、前掲甲第八〇号証によれば、原告らはいずれも勤務状態が概ね良好にして家庭も円満であることが認められ、本件各証拠によっても、原告らが被告会社の企業設備を破壊するとか、他人を煽動して過激な運動を展開するなど企業秩序を破壊びん乱し、被告会社の機密を漏洩する虞れを認めさせるものは何もない。
 (中 略)
 以上を総合考察すると、被告の右行為は原告らに対する違法行為であり、これにつき被告の故意、過失は明らかである。