全 情 報

ID番号 00261
事件名 懲戒処分無効確認請求事件
いわゆる事件名 電電公社帯広局事件
争点
事案概要  頚肩腕症候群総合精密検診の受診を命じた業務命令に従わなかったこと及び右問題にかかわる団交の場に押しかけその間無断で職場を離脱したことを理由に戒告処分に付された被上告人が右処分の無効確認を求めた事例。(上告審原判決破棄・自判)
参照法条 労働基準法2章,89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1986年3月13日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (オ) 1408 
裁判結果 破棄自判
出典 労働判例470号6頁/労経速報1249号3頁/訟務月報32巻12号2739頁/裁判集民147号237頁
審級関係 控訴審/00255/札幌高/昭58. 8.25/昭和57年(ネ)107号
評釈論文 ・地方公務員月報284号46~55頁1987年3月/奥山明良・日本労働法学会誌69号102~110頁1987年5月/岸井貞男・昭和61年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊887〕200~205頁1987年6月/今野順夫・労働法律旬報1146号18~26頁1986年6月25日/坂本重雄・ジュリスト863号48~52頁1986年6月15日/山田長伸・最高裁労働判例〔7〕―問題点とその解説384~404頁1987年11月/秋田成就・民商法雑誌96巻2号246~251頁1987年5月/新谷眞人・季刊労働法140号
判決理由  〔労働契約―労働契約上の権利義務―業務命令〕
 1(一)一般に業務命令とは、使用者が業務遂行のために労働者に対して行う指示又は命令であり、使用者がその雇用する労働者に対して業務命令をもって指示、命令することができる根拠は、労働者がその労働力の処分を使用者に委ねることを約する労働契約にあると解すべきである。すなわち、労働者は、使用者に対して一定の範囲での労働力の自由な処分を許諾して労働契約を締結するものであるから、その一定の範囲での労働力の処分に関する使用者の指示、命令としての業務命令に従う義務があるというべきであり、したがって、使用者が業務命令をもって指示、命令することのできる事項であるかどうかは、労働者が当該労働契約によってその処分を許諾した範囲内の事項であるかどうかによって定まるものであって、この点は結局のところ当該具体的な労働契約の解釈の問題に帰するものということができる。
 ところで、労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、その定めが合理的なものであるかぎり、個別的労働契約における労働条件の決定は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範としての性質を認められるに至っており、当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受けるというべきであるから(最高裁昭和四〇年(オ)第一四五号同昭和四三年一二月二五日大法廷判決・民集二二巻一三号三四五九頁)、使用者が当該具体的労働契約上いかなる事項について業務命令を発することができるかという点についても、関連する就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいてそれが当該労働契約の内容となっているということを前提として検討すべきこととなる。換言すれば、就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができる。
 (中 略)
 以上の公社就業規則及び健康管理規程によれば、公社においては、職員は常に健康の保持増進に努める義務があるとともに、健康管理上必要な事項に関する健康管理従事者の指示を誠実に遵守する義務があるばかりか、要管理者は、健康回復に努める義務があり、その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務があることとされているのであるが、以上公社就業規則及び健康管理規程の内容は、公社職員が労働契約上その労働力の処分を公社に委ねている趣旨に照らし、いずれも合理的なものというべきであるから、右の職員の健康管理上の義務は、公社と公社職員との間の労働契約の内容となっているものというべきである。
 (中 略)
 (二)もっとも、右の要管理者がその健康回復のために従うべきものとされている健康管理従事者による指示の具体的内容については、特に公社就業規則ないし健康管理規程上の定めは存しないが、要管理者の健康の早期回復という目的に照らし合理性ないし相当性を肯定し得る内容の指示であることを要することはいうまでもない。しかしながら、右の合理性ないし相当性が肯定できる以上、健康管理従事者の指示できる事項を特に限定的に考える必要はなく、例えば、精密検診を行う病院ないし担当医師の指定、その検診実施の時期等についても指示することができるものというべきである。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―業務命令拒否・違反〕
 (五)以上の次第によれば、被上告人に対し頚肩腕症候群総合精密検診の受診方を命ずる本件業務命令については、その効力を肯定することができ、これを拒否した被上告人の行為は公社就業規則五九条三号所定の懲戒事由にあたるというべきである。
 四 そうすると、原判決が本件業務命令の効力を否定したうえ、これを拒否した被上告人の行為が公社就業規則五九条三号所定の懲戒事由に該当しないとしたのは、法律の解釈適用を誤ったものであるといわざるを得ず、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。したがって、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記の職場離脱が同条一八号の懲戒事由にあたることはいうまでもなく、以上の本件における二個の懲戒事由及び前記の事実関係にかんがみると、原審が説示するように公社における戒告処分が翌年の定期昇給における昇給額の四分一減額という効果を伴うものであること(公社就業規則七六条四項三号)を考慮に入れても、公社が被上告人に対してした本件戒告処分が、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え、これを濫用してされた違法なものであるとすることはできないというべきである。したがって、本件戒告処分は適法ということができ、その無効確認を求める被上告人の本件請求は理由がないというべきであるから、被上告人の請求を認容した第一審判決はこれを取り消したうえ、その請求を棄却すべきである。