全 情 報

ID番号 00278
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本コロムビア事件
争点
事案概要  川崎事業所電気製造部テレビ第一製造課第一作業係第一調整班から同課箱入班への配転拒否、さらに同課から電機営業本部サービス部への配転拒否等を理由として懲戒解雇された従業員が、従業員としての地位保全、賃金仮払の仮処分を申請した事例。(申請却下)
参照法条 労働基準法3条,2章,89条1項9号
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1972年11月1日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和45年 (ヨ) 2419 
裁判結果 却下
出典 労経速報798号8頁
審級関係
評釈論文
判決理由   〔労基法の基本原則―均等待遇―信条と均等待遇(レッドパージなど)〕 特定の思想、信条を有しているからといって、ただそれだけの事由で当該労働者を配転の対象外とすることは、右配転が有利、不利いずれのものであるにせよ、他の労働者との関係でその労働者を何ら正当なる事由なくして特別に扱うこととなり、かえって不合理な結果を招来し、平等、衡平の概念に反するものというべく、したがって、人事権者において配転対象者が特定の思想、信条を有していることを認識していたとしても、これが認識の程度にとどまるかぎりにおいては、いまだ思想、信条を理由とする不当配転の問題は生ずる余地がなく、これが問題となるのは、人事権者において特定の思想、信条を嫌悪し、専らかかる思想、信条を有する者を弾圧する意図でもってなす場合、すなわち、特定の思想、信条を有していることそれ自体がまさに配転の主たる契機になっている場合に限定されるものと解するのが相当である。
 (中 略)
 申請人を本件配転の対象者に選定したのが第一次配転の問題で申請人の処置に苦慮していた林課長らであることを考えると、同課長らが数ある適格者の中から本件配転の対象者を選定するに際し、第一次配転拒否のいきさつから申請人に他の職場に異動して欲しいとの期待感があり、これが申請人を右対象者に選定する一要素となったのではないかとの推測はにわかに否定し難いが、しかしながら、かりにそうであったとしても、かかる期待は申請人が特定の思想、信条を有していることによるものではなく、それとは別個に評価されるべき申請人の専横ともいうべき右配転拒否の態度に由来するものであるし、また上述のような右拒否の内容、態様に照らせば同課長らが右のような期待を抱くに至ったとしても無理からぬところがあり、加えて、職場における勤務態度や人間関係を人選の際考慮に入れること、それ自体は何ら非難されるべき筋合のものではないから、不当差別とか人事権濫用を問題とすべき余地はないものというべきである。
 以上によれば、第一次配転の存在およびこれと本件配転の関連性から本件配転が不当差別であるとする申請人の主張は採用し難く、他に申請人の思想、信条が本件配転の主たる契機になっていることを窺うに足りる疎明資料は存在しないから、本件配転が申請人の思想信条を理由とする不当差別である旨の申請人の主張は採用できない。
 〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令の根拠〕
 申請人は被申請人との労働契約において、申請人の勤務場所は川崎事業所に、その職種はテレビの調整、修理などに限定されていた旨主張するが、しかしながら、被申請人のように全国各所に営業所などを有する大規模な企業においては、従業員とりわけ男子については一般的に配転が行われている実状にあり、また、被申請人の就業規則においても、その第三〇条に「事実上の都合で転勤、職種の変更又は出向を命ずることがある。前項の場合、従業員は正当な理由なくして之を拒むことは出来ない。」と規定していることに鑑みると、通常の採用形態で雇傭された従業員は、被申請人から将来勤務場所や職種の変更を命じられることがあることをあらかじめ了解しているものと解するのが相当であるから、申請人主張のような契約の存在は極めて例外的なものであるというべく、したがって、その主張のような契約だと解し得るためには、申請人が被申請人と個別的にその旨を明確にした契約の存在が認められねばならないところ、本件においては右のような特段の契約の存在を認めるのに足りる疎明資料は存在しない。
 もっとも疎明によれば、申請人が入社する直前被申請人から申請人の就学先である前記Aに提出された求人申込票はその職種欄に「テレビ(殊にカラーテレビ)製造関連業務」と就業場所欄に「川崎工場」とそれぞれ記載されていることが認められるが、しかしながら上述のような判断に求人申込票自体の性質を併せ考えると、すくなくとも本件においては、右記載は単に入社当初一応予定されている職種、勤務場所を意味するにすぎず、これが将来に亘って限定する趣旨で記載されたものではないと解するのが相当であるから、右の記載をもって申請人主張の契約の存在を認め得る事情とはなし難い。
 〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令権の濫用〕
 配転基準に該当する者が多数存在していたとしても、その中から何人を選定するかは被申請人の裁量の範囲内に属するものというべきであるし、事前協議の点についても、申請人が本件配転の対象者に内定したのが同年九月一二日であることは上述のとおりであるところ、その後同月一六日には前記B課長が申請人に対し本件配転の内容を告知し、さらに同日から正式発令の同月二一日までにも、同課長らは申請人に本件配転に従うよう説得を重ねてきたことは後記三認定のとおりであるから、被申請人としては内定段階において申請人の了解を得るよう努めていたものというべく、それ以上に遡って選考過程の段階から申請人と協議すべきとすることは、事柄の性質上無理な要請というほかはないから、申請人のこの点の主張も理由がなく採用できない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―業務命令拒否・違反〕
 右認定事実によれば、申請人は単に本件配転に従うことを拒否したにとどまらず、上司の度重なる説得、訓戒に対しかえって開き直り、「社報に謝罪文を出せ。」などと不穏当な言動に及び、果ては旧職場に強行就労しようとして保安職員ともみあうなどの紛争を重ねたものであって、これにより職場における規律や秩序を著しく紊したものというべく、しかも、賞罰委員会において弁明の機会を与えようとして発送した呼出し状には、上述のような挑発的文言を記載し、その出席を拒むなど、一貫して硬直的反抗的態度を固持してきたものであり、かような申請人の一連の行為は、就業規則および労働協約の上掲各条項のうち、少なくとも就業規則第三〇条に違反し懲戒事由たる同規則第七三条第三号ないし第五号(労働協約第一八条第三号ないし第五号)に該当するものというべく、しかも、その程度は申請人の従業員としての適格性を否定するほど情の重いものと評価されるから、被申請人が上述のような経緯で申請人を本件解雇に付したのも無理からぬところであって何ら不当視し得るものではない。したがって本件解雇は有効なものと解すべきである。