全 情 報

ID番号 00328
事件名 休職、出向命令の無効等確認請求事件
いわゆる事件名 名村造船所事件
争点
事案概要  被告本社総務部管財課勤務の書記である従業員が、訴外会社への出向命令を受け休職処分に付されたので、右勤務の書記としての地位確認を請求した事例。(請求一部認容)
参照法条 民法625条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
裁判年月日 1973年8月16日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 3596 
裁判結果 認容
出典 時報727号97頁
審級関係
評釈論文 高木紘一・労働判例185号21頁/鈴木康隆・労働法律旬報847号66頁
判決理由  雇傭契約は、労働者が使用者に対してその指揮命令の下に労務を提供し、その対価として賃金を得ることを内容とする契約であって、使用者は、この契約に基づいて、はじめて、労働者の労働力を企業目的のために利用処分する機能を取得するものである。ところで、雇傭契約は、その目的たる給付の性質上、労働者と使用者との密接な人的関係を要素とするものであり、その意味では、雇傭契約上の権利義務は一身専属的性質を有するものとみるのが相当である。民法六二五条一項が、使用者は労働者の承諾なしにはその権利を第三者に譲渡しえない旨を、規定しているのも、雇傭契約における以上のような一身専属的性質を考慮しているからにはほかならず、この規定の趣旨に照らせば、使用者は、特段の合意のない以上、自己の指揮命令の下においてのみ労働者に労務の提供を命じうるに止まり、労働者もまた、雇傭契約においてあらかじめ同意し、あるいは、その後において個別的に同意するか、これと同視しうべき特段の事情の存しないかぎり、当該使用者の指揮命令下において、右使用者のためにのみ労務を提供すべき義務を負うにすぎないものと解するのが相当である。したがって、使用者は当該労働者の承諾その他これに代る法律上正当な根拠なくして労働者を第三者の指揮下において労働させることは許されないものといわなければならない。
 およそ、就業規則の規定が雇傭契約の内容を成し、あるいはこれを修正する場合のあることは、これを肯定しえないではないが、いやしくも労働条件に関する限り、その規定は明確であることを要し、もとよりこのことは出向制度についても同様であるから、文意がいずれとも解されるような規定をもって、労働者の利害にかかわる出向義務の根拠規定とすることは許されないものというべきである。これを本件についてみるのに、被告会社の就業規則に、被告主張のような内容の六二条、六四条一項、同項三号の各規定の存することは当事者間に争いがないが、同規則六二条は、単に被告会社内における任免、転勤、または職場、職種の変更について規定したものにすぎず、出向すなわち被告会社の従業員に対し、被告会社以外の第三者の指揮下において労務の提供をなすことを命じうる根拠を定めたものと解することは困難である。また、同規則六四条一項も、単に休職を命じうる場合を規定したにすぎず、出向について規定したものと解することはできない。もっとも、同規則六四条一項三号に、休職事由の一つとして、「業務の都合によって会社外の業務に従事させるとき」とあるのは、一見、出向の命令を含むかにみえないではない。しかしながら、後記説明のとおり出向にも種々の形態があり、労務指揮権が被告会社に残存する場合、逆にこれが出向先に移る場合、あるいはそのいずれを問わず、労働者が同意のうえ出向する場合等が考えられるが、これらの点が右規定上判然としていないばかりでなく、さらには、後記のとおり給与、退職金等に関する被告会社の諸規程のうえで、出向者の給与の支払、退職金の算出基準等について規定が整備されていない等の事情を合せ考えれば、右の休職事由に関する規定が出向の場合を含むものかについては疑義なきをえず、このような規定のみをもって出向命令の根拠規定と解することも困難である。
 以上の次第であって、本件出向により労務指揮権は出向先である訴外会社に移転するものというべきであるから、右出向先について原告の同意を要しないものとすることは到底できないし、また訴外会社と被告会社が同じ企業グループに属し実質的に一体関係にあることも、これをもって本件出向命令に原告の同意を要しないことの理由とはなしえないものというべきである。
 右認定事実によれば、原告は、一応本件出向命令の辞令の交付を受け、かつ出向先の訴外会社に挨拶に赴きはしたが、右出向命令に納得したわけではなく、その効力を裁判で争うことを決意し、将来に異議を保留して右辞令の交付を受けたものであり、出向先への右挨拶についても前記仮処分申請後にこれを行ない、実質的にはなんら出向先での仕事をせず、その間に本件出向命令の効力を停止する趣旨の前記仮処分命令が発せられているのであるから、原告が右辞令の交付を受け、かつ出向先に挨拶にいったからといって、本件出向に同意したものということはできない。