全 情 報

ID番号 00336
事件名 仮処分異議訴訟事件
いわゆる事件名 ミロク制作所事件
争点
事案概要  就業規則を改正して、転籍を業務の都合により従業員に命じうるとし、転籍に応じない従業員を解雇した会社に従業員としての仮の地位の保全を命じた仮処分決定に対して異議が申したてられた事例。(原決定認可、申請認容)
参照法条 労働基準法2章,89条,93条
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 転籍
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / その他
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 1978年4月20日
裁判所名 高知地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (モ) 240 
裁判結果 認可
出典 時報889号99頁/労経速報990号22頁/労働判例306号48頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣―転籍〕
〔就業規則―就業規則の一方的不利益変更―その他〕
 2 以上の認定事実によると、会社では従来転籍は従業員の承諾の下に行われ、それに副った労働協約条項も存在していたところ、会社は右協約の一方的な廃棄通告をして就業規則四四条で転籍に関し従業員は正当な理由がなければこれを拒むことができないと定めたのであるが、転籍とは、元の会社を退職することによってその従業員としての身分を失い、移籍先の会社との間に新たに雇傭関係を生ぜしめることで、元の会社との関係においていわば新労働契約の締結を停止条件とする労働契約の合意解除に相当するものであるから、従業員はその合意解除契約締結の自由が保障されなければならないのである。
 すなわち、転籍は、移転先との新たな労働契約の成立を前提とするものであるところ、この新たな労働契約は元の会社の労働条件ではないから、元の会社がその労働協約や就業規則において業務上の都合で自由に転籍を命じうるような事項を定めることはできず、従ってこれを根拠に転籍を命じることはできないのであって、そのためには、個別的に従業員との合意が必要であるというべきである。しかるに、被申請人はもともとそのような内容の労働協約の定めがあったものを一方的に従業員に不利益に変更したもので、その変更自体無効といわざるをえないが、改正後の就業規則四四条に基づき転籍を命じることもできないといわざるをえない。
 したがって、右条項にもとづく転籍命令は無効である。
〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―職務上の不正行為〕
 被申請人の経理規程第二二条第三項には「収入した金銭は遅滞なく指定した銀行に預託しなければならない。」旨規定されているところ、申請人がA所長の直接下請業者に支払うとの言を信じて本件小切手を現金化したうえ、これを同所長に手渡したことは本件小切手を直ちに指定銀行に預託しなかったという点において、形式的には右経理規程に違反しているものといいうる。
 しかし、わずか所員数名という山形営業所の所長と係長という立場にあるAと申請人との地位、関係、さらには申請人においてはAの現金化した金員を同営業所のために使用するという弁明を信じたことなどの事実に徴すれば、当時申請人が置かれた状況下においては、申請人の右行為もそれなりに無理からぬところがあり、したがってこれを形式的な経理規程違反の故をもって問責するのは、余りにも申請人に対し酷に失するところがあるものというべきであろう。
 ところで、被申請人は申請人が懲戒解雇事由たる就業規則第九五条第二項第一九号の「会社の諸規則に違反し、会社に重大な損害を与えたとき。」または同項第六号の「職務上の地位を利用して、不正な手段により、自己又は他人の利益をはかったとき。」に該当するという。
 しかし、申請人の小切手の現金化等の行為それ自体は上述のとおりそれ程非難し難いところであるから、申請人に対して右のような条項に該当するとして懲戒処分をもって臨み得るためには、右条項の文言およびそれが懲戒解雇事由であるという趣旨に鑑みるとき、少なくとも申請人において右行為当時、右現金化される金員が高橋所長によって個人的に取消され、その結果被申請人が損害を受けるかもしれないとの認識を有していたことが要件にされるものと解すべきところ、申請人にはこの点の認識を有せず、かえって被申請人のために費消されるものと信じて小切手の現金化等の行為をなしたものと認められるから、被申請人が申請人について右懲戒解雇事由がありとしたのは右条項の解釈、適用を誤ったものというほかはない。
 右によれば、本件解雇には相当な懲戒解雇理由を欠くものであるから、解雇権を濫用したもので無効なものというべきである。