全 情 報

ID番号 00337
事件名 出向命令差止等仮処分申請事件
いわゆる事件名 興和事件
争点
事案概要  使用がなしたグループ内別会社への勤務命令につき、同意なしになされたものであるとして、停止を求めた仮処分事例。
参照法条 労働基準法2章
民法43条,625条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向と配転の区別
配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
裁判年月日 1980年3月26日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ヨ) 1453 
裁判結果 却下(控訴)
出典 労働民例集31巻2号372頁/時報967号125頁/労働判例342号61頁/労経速報1045号3頁
審級関係
評釈論文 今野順夫・季刊労働法117号138頁/小西国友・ジュリスト770号135頁/渡辺裕・昭和55年度重要判例解説〔ジュリスト743号〕244頁/林和彦ほか・労働判例374号4頁
判決理由  申請人に対する本件命令が単なる社内配転命令に過ぎないのか、出向命令に当るのかを判断するに、労働者の労働契約上の債務履行は同契約上の債権者たる使用者の労務指揮のあり方と深いかかわりがあることを考えると、特段の事情が認められない限り契約において当事者とされた者以外の者の指揮命令に服することになるか否か、換言すれば使用者たる者の法人格の異同を基準に出向か否かを決すべきものと解する。すると、本件において、三社の沿革、人事、経営、社員の採用方式、勤務条件、福利厚生等が法人格を異にするに拘らず、密接不可分の関係にあり、現在実態上一つの会社に近い状態で運営されていることは、認められるけれども、少くとも申請人の雇傭関係を法律的見地から見ると、会社とAは法人格を異にし、申請人が労務を提供する際の具体的指揮権者は法的に変更するものと認められるから、本件においてはAに勤務すべき旨の命令をいわゆる出向(在籍出向)に当るものと解する。
 (中 略)
 三社の実質的一体性が高度であり、実質上同一企業の一事業部門として機能していて、いわゆる親子会社における関係以上に密接不可分の関係にあること、又統一的な人事部門によりほゞ統一的な人事労務管理がなされ、従前三社間の人事異動は、転勤とみなされていた実態等があること、このような実態を背景として、申請人は、細部にわたって詳細にとは云えないまでも、右の基本的構造を、採用時に説明を受け、これを了承して入社したものと認められるから、右申請人の採用時の右包括的同意に基づき使用者たる会社は、申請人に関する将来の他の二社のうちのいずれかへの出向を命ずる権限を取得したものといわねばならない。申請人は、出向については出向を命ぜられる者の同意が必要であり、その同意は入社時の包括的同意では足りず、出向先等を明示した会社側の個別的、具体的条件の提案に対する個別的同意でなければならないと主張する。しかしながら労働者の出向を拒む利益、即ち契約における当初の使用者のもとで労務に服する利益を、一身専属的なものとみて、これを放棄しまたは他に委ねるには、当該権利者の同意を必要とするという趣旨に解するならば、それは真に同意に価するものである限り、明示とか個別的なものに限る理由なく、暗黙或いは包括的態様のものでも足ると解すべきである。もっとも有効な合意とみるためには、それが労働者の十分なる理解のもとでなした真意に基づくものであることが必要であり、また内容が著しく不利益なものや、将来不利益を招くことが明白なものであってはならないことは当然である。更にまた同意をした当時と出向命令時との間に関連会社(出向先)の範囲に変動があったり、出向先の労働条件に変化があって、労働者に不利益な事情変更があったような場合には、包括的同意を根拠として出向を命令することは問題であろうが、そのような場合ではない限り、使用者は事後的に、包括的同意の効力の範囲内において具体的出向命令を発し得ると解するのが相当である。