全 情 報

ID番号 00354
事件名 解雇無効等請求事件
いわゆる事件名 高見沢電機製作所事件
争点
事案概要  県議選に立候補を予定している労働者が、選挙運動の準備のための欠勤もしくは休職扱いの申出を、拒否されたにもかかわらず、欠勤したこと、会社に対する抗議としてビラを配布したこと等を理由として、労働協約に基づいて懲戒解雇されたので、被告会社の従業員としての地位の確認等を請求した事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 欠勤による不就労
休職 / 会社の業務と両立しない業務についた場合の休職
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1975年2月25日
裁判所名 長野地佐久支
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 31 
裁判結果 認容
出典 労働判例223号56頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔賃金―賃金請求権の発生―欠勤による不就労〕
 労働者は一旦労働契約を締結した以上、使用者に対し誠実に労務を提供すべき義務を負うのであって、法規、慣行、社会通念等に照らしやむを得ないものとして是認されるような事由のない限り、右義務を免れないのであり、原告の主張するような届出さえすれば、理由の如何を問わず何時でも休むことができるという意味での「欠勤権」なるものは、右のような労働契約の性質と全く相容れないので、もし当事者にそのような「欠勤権」を認める明示の特約でもあれば格別、通常は成立する余地のないものである。原告は欠勤等に関する協約五四条と遅刻早退等に関する同五八条の文言の相違を捉えて右「欠勤権」を主張するのであるが、右文言の相違のみから協約が「欠勤権」を認めたものと解することは到底相当ではなく、むしろ右五四条は「欠勤…を請求するときは……届出なければならない。」というのであるから、被告主張のとおり、欠勤等につき会社の承認を求める手続を規定したものと解すべきである。結局、欠勤については理由を示して使用者に申し出、その承認を得るべきものであり、反面使用者はそれが相当な理由にもとづくものである限り承認を与えるべきであって、このことは被告会社においても一般の場合と何ら異るところがないというべきである。
 本件における原告の欠勤事由は、数か月先に施行される選挙に立候補を予定し、そのための準備である政策学習に会社を休んで従事するというのであるから、このような理由による欠勤を会社が承認し、労務の提供を受けないのに賃金を支払わなければならないものではないことは、社会通念から考えても明らかであって、会社が右欠勤を認めなかったのは当然というべきである。
 〔休職―会社の業務と両立しない業務についた場合の休職〕
 労働協約一五条には、組合員が会社の業務と両立しない業務についたときは、休職を命ずる旨の規定があることは当事者間に争がなく、就業規則四一条にも同旨の規定があることが、(証拠略)によって明らかであるところ、本件においては、右休職事由に該当する事実があったものというべきである。すなわち、証人Aの証言、原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和四五年七月頃、日本共産党佐久地区委員会から、翌年四月の県会議員選挙に党公認として立候補してはどうかという話を受けてこれを受諾し、立候補を決意したのであるが、同党公認として立候補する場合には、党の方針として、党中央や県委員会から出されている地方選挙向けの政策を徹底的に学習し身に着けた上、当該選挙区の労働者農民等と小まめに会合してその実情、要求等を詳細具体的に把握し、これを織り込んだ当該候補者自身の政策を樹立する必要があり、原告のいう予定候補者としての準備活動、政策学習とはこのような内容のものであって、会社に勤務しながら休日、年次有給休暇、その他勤務時間外の時間を利用しただけでは到底充分でなく、所期の効果を達成することを期待できないことが認められる。そしてこのような公党公認の立候補予定者としての活動は、一種の社会的地位にもとづいて行われるもので、「業務」に該当すると解して妨げないものであり、会社に勤務しながらでは充分な活動が困難であるというのであるから、まさに本件休職事由にいう「会社の業務と両立しない業務」に該当するものというべきである。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―業務命令拒否・違反〕
 このように紛糾を生じた原因の根本は、会社が休職を認めなかったことにあると認めざるを得ないのであって、それにも拘らず、原告がこのような会社の態度を非難攻撃し、出勤命令に従わなかったからといって、懲戒解雇に付したことは、原告が労働協約や就業規則の独自の解釈にもとづき欠勤権なるものを主張し、これを従業員に宣伝したこと、日本共産党名のビラを配付したこと(中 略)等を考慮に入れても、明らかに重きに失し、当を得たものではないというべきである。