全 情 報

ID番号 00374
事件名 労働契約存在確認等請求事件
いわゆる事件名 東芝柳町工場事件
争点
事案概要  二ケ月の期間雇用が更新反復されていた臨時工らが、経歴詐称等を理由に更新を拒絶されたのに対して、右更新拒否は解雇権濫用ないし更新拒絶権濫用にあたり無効である等として、労働契約の存在確認等を求めた事例。(一部原告のみ認容)
参照法条 民法629条
労働基準法21条1項,89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 所持品検査
解雇(民事) / 解雇事由 / 経歴詐称
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1968年8月19日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (ワ) 500 
裁判結果 (控訴)
出典 労働民例集19巻4号1033頁
審級関係 上告審/00385/最高一小/昭49. 7.22/昭和45年(オ)1175号
評釈論文 宮本安美・法学研究〔慶応大学〕42巻8号103頁
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―所持品検査〕
 臨就規(前顕乙第八号証の六の(イ))第二七条によれば、「日常携帯品以外の物品を持って出入するときは、所定の手続を経て警備員の点検を受けなければならない。」旨規定されており、右所定の手続とは、証人Aの証言によれば、社製品を持出す場合には会社から物品持出証の交付を受ける手続になっており、それを意味することが認められるのであって、これによって同条の規定の趣旨をみるとき、それは日常携帯品以外の物品を持って会社に出入りするときは、その出入りする者が自発的に会社の定める右手続を経た上で、警備員に対し、当該物品がその手続を経た物品であるかどうかの点検を受けなければならないことを定めたものであって、警備員が会社に出入する臨時工に対し一般的、個別的に持物検査をなしうる根拠を定めたものとは認められない。
 〔解雇―解雇事由―経歴詐称〕
 ところで、臨就規第八条によれば、経歴詐称があった場合には、その従業員を解雇しうる旨定められていて、自己の経歴を詐称するが如きことは固より労使関係の信頼性を破り企業秩序に悪影響を及ぼすもので許さるべきことではないが、同原告の右履歴書不実記載が殊更悪意を以ってなされたことおよびそれが同原告の会社における職種、配置、仕事に特段の影響を与えたことの証拠はなく、又雇傭当時その事実が判明していたならば、雇傭しなかったであろうという具体的な因果関係の存在を認めるに足る証拠はなく、却って、前顕B証人の証言によれば、同原告が入社の際履歴書に右の記載をしたとしても採用していた筈であることが認められるから、同原告の右所為を臨就規第八条(7)、第九条(4)所定の経歴詐称に該当することを理由とする解雇は行過で不当である。
 〔解雇―短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 しかして、右事実と前示一の事実とを綜合すれば、会社と原告らとの間に締結された本件各労働契約は、固より正規従業員(本工)契約とは異なり、本工登用試験の合格により本工に採用されうる、当初は有期(二か月)の労働契約であったが、この二か月の雇傭期間の定めは叙上の事実関係の下において本件各労働契約が締結されかつ数回ないし二〇数回に亘って更新され原告らが引続き雇傭されてきた実質(いわゆる連鎖労働契約の成立)に鑑みれば、殊に会社の設備拡張、生産力増強に伴う緊急の労働力需要に基く過剰誘引とその利用関係の維持に由来することからしても、漸次その臨時性を失い本件各傭止めの当時にはすでに存続期間の定めのない労働契約(本工契約ではない。)に転移したものと解するのが相当であるから、原告らに対する会社の本件労働契約更新拒絶の意思表示は法律上解雇の意思表示とみるべきであって、臨就規第八条所定の「契約期間が満了したときは解雇する。」旨の規定は本件各解雇当時においてはすでに原告らに対してこれを適用するに由なく、これに準拠して原告らの雇傭関係上の権利を消滅させることは許されないというべきである。