全 情 報

ID番号 00437
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 河北新報社事件
争点
事案概要  男子五五歳、女子四五歳定年制を定めた就業規則の適用を受けて解雇されたが、協約の嘱託制度により二年を限度に再雇用された女子社員が、右定年制は性による差別待遇にあたり無効であるとして、普通社員としての地位の確認等求めた事例。(一部認容)
参照法条 労働基準法3条,2章,115条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 女子若年定年制
雑則(民事) / 時効
裁判年月日 1983年12月28日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ワ) 334 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 時報1113号33頁/タイムズ516号195頁/労経速報1175号6頁/労働判例423号29頁
審級関係
評釈論文 照井敬・労働判例427号4頁
判決理由  〔労基法の基本原則―均等待遇―女性若年定年制〕
 ところで、本件就業規則三七条は、女子の定年を男子の定年より一〇歳低く定めているから、被告の企業経営の観点から、定年年令において女子を低くしなければならない合理的理由のない限り、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして、民法九〇条の規定により無効であると解すべきである(憲法一四条一項、民法一条ノ二参照)。
 そこで、右認定事実に基づいて、被告の主張を検討してみるに、被告主張の業務の特殊性、退社の慣行が男女の定年を区別する合理的理由とならないことは、前示の各事実特に原告の業務が一般事務系に属し、普通社員と二号嘱託とで著しい相違がないこと、昭和三九年当時既に被告の如き大きな規模の新聞社においては男女五五歳の定年制を採用していることに照らして明らかである。
 被告は、二号嘱託制度の採用により、本件就業規則三七条の瑕疵が治癒され、被告の女子定年制が社会的に認容される限度内にあった旨主張する。しかしながら、前記認定事実によれば、二号嘱託は、賃金が退社時の本俸及び第二本俸の六〇パーセントを目途に決められること、昭和四六年当時の雇用限度期間が二年であること等普通社員に比べ著しく雇用条件の低下を伴うものであり、また、二号嘱託制度は、前示のとおり、組合との協約に基づくとはいえ、男女の定年を同一にする前提として、年功型賃金体系の見直しをするための暫定的なものであるから(このことは、昭和四一年六月当時被告の人事部長であった証人加茂貞雄が、年功型賃金体系の検討に二年位かかるということで、二号嘱託の雇用限度期間を一応二年とした旨の証言により明らかである。)、被告は相当な期間内に右賃金体系を改正し、男女同一の定年制を採用すべきことが要請される。したがって、二号嘱託制度の採用は、かかる改正措置を採るに必要な相当期間内においてのみ、社会的に認容される余地がないとはいえないが、右相当期間を経過すると、二号嘱託の制度自体が存続の目的を失い、違法無効となるものと解すべきである。
 被告は、昭和四一年六月から昭和四六年三月までの間、右改正措置を採っていないことは弁論の全趣旨により明らかであるから、昭和四六年三月当時二号嘱託制度は違法無効となり、これをもって、被告の男女差別定年制を合法化することはできない。
 よって、本件就業規則三七条中女子定年部分は、専ら女子であることを理由として差別したことに帰着し、性別のみによる差別を定めたものとして、民法九〇条により無効であると解するのが相当である。
 〔雑則―時効〕
 被告主張の各賃金賞与請求権がその主張のように二年間の時効期間を経過していることは当裁判所に顕著であり、そして、被告がその主張のように消滅時効を援用していることは訴訟上明らかである。
 しかしながら、無効である定年制を適用して原告を定年解雇とし、違法無効な二号嘱託として原告を処遇し、その間女子の定年を延長しながら、これを原告に適用することなく、違法状態を一〇年余りに亘り継続してきたのは、ほかならぬ被告自身であることは前示のとおりであり、これに原・被告間の地位関係等を合せ考えると、原告が権利の上に眠り権利行使を怠ったとして責を負わすことは、著しく公正の原則に反するということができ、結局被告の時効援用は権利の濫用として許されないと解するを相当とする。