全 情 報

ID番号 00453
事件名 従業員地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 松山市民病院事件
争点
事案概要  病院の経営秩序を破壊したとの理由で解雇された准看護婦が、本件解雇は不当労働行為であるとして地位確認と賃金支払の仮処分を求めた事例。訴訟係属中に病院の事業が引継がれたため、労働契約の承継が問題となった。(一部認容。賃金の一部認められなかった)
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 営業譲渡
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1965年5月26日
裁判所名 松山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ヨ) 155 
裁判結果 一部認容
出典 労働民例集16巻3号394頁/時報422号56頁
審級関係
評釈論文 下森定・労働経済旬報640号10頁
判決理由  〔労働契約―労働契約の承継―営業譲渡〕
 被申請人は、昭和三九年一一月三〇日をもって、その唯一の事業であったA病院を廃止し、同日までに従業員全員を解雇したこと、一方、引受参加人は、同年一〇月二八日愛媛県知事の許可を受けて設立された財団法人であるが、被申請人から旧A病院の土地建物及び施設一切の貸与を受け(なお、将来寄付を受けることになっている。)、同年一二月一日をもって、愛媛県知事から病院設備の使用許可を受け、A病院を開設し、実際には、旧病院の業務は中断することなく、その設備一切、患者、従業員(但し、この機会に退職した者も一、二名ある。)をそのまま引継いで現在に至っていること、なお、引受参加人の理事八名のうち五名は被申請人の理事を兼ね、残り三名は旧A病院の医師であることがそれぞれ認められる。
 そうすると、被申請人と引受参加人とは法律上別個の経営主体であることは勿論であり、引受参加人は、両者の間に営業譲渡その他労働関係承継の協定は存在しないと主張するのであるけれども、右認定の事実から考えれば、むしろ、、他に特段の反証のない限り、少くとも従前の従業員に対する労働関係については、被申請人から引受参加人に包括的に承継するとの暗黙の契約があり、これに基づいて、引受参加人は、病院開設とともに従前どおりの条件で従業員を雇用しているものと推定するのが相当である。
 〔解雇―解雇権の濫用〕
 (五)また、仮に、申請人に非難に値する何らかの規律違反行為があったとしても、右行為は、解雇の意向を表明した昭和三六年九月の直前に生じたもののみではなく、相当期間経過したものも含まれているのであるから(B証人の証言によれば、昭和三四年ごろの所属長会議から申請人の問題が出ているという。)、管理者としては、早期に直接申請人に対して規律違反行為につき調査し、弁明を徴したうえ、必要であれば、就業規則に定められたけん責、減俸、休職等のより軽度の処罰を加えてその反省を求めうるべきであるのに、本件においてはそのような方法をとった形跡は全く認められないし(中西証人は、院長が婦長を通じて注意を与えていた旨供述するが、申請人本人の供述と比較して、その真偽は疑わしく、また、右の注意を与えたとしても、十分とはいえない。)、抜きうちに職場から排除するという重大な処分に出なければならないほどの緊急性があったことも認められない。