全 情 報

ID番号 00456
事件名 解雇無効確認請求事件
いわゆる事件名 九州電力事件
争点
事案概要  九配と日発両社の現物出資によって設立された被告会社は、右両社の従業員をそのまま引き継いだが、裁判所、労働委員会で係争中の者を引継対象から除外したので、除外された従業員らが、従業員たる地位の確認を請求した事例。(請求棄却、一部却下、一部終了)
参照法条 労働基準法10条,2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 新会社設立
裁判年月日 1973年1月31日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (ワ) 885 
裁判結果 一部棄却、一部却下
出典 労働判例172号73頁
審級関係
評釈論文
判決理由  前記認定の被告会社設立の経緯によれば、A会社およびB会社九州支店が、従前から営んでいた電気事業を、出資または譲渡の方法により、そのまま新会社たる被告会社へ移行させたという実体を有しており、このように実質的には企業の実体に変更のない企業主体の変更の場合は、従業員の雇用関係も新会社に承継されるのを通常とすべく、しかして、もしあえて承継より除外する場合には、承継せしめないことにつき合理的な理由がなければならないと解するのが相当である。けだし、労働契約は従業員と企業主体との間に締結されるものであるが、その実質は特定の企業所有者ないし経営者に対して労務を提供するというよりは、むしろ客観的存在としての企業そのものに労務を提供するものであり、また、現代の企業では、従業員は企業の諸物的施設とともに企業の人的施設として企業の一部を構成するものであるから、本件のように実質的には企業の実体の変更を伴なわずに企業主体が変更され、新会社が設立される場合には、通常は従業員も企業の諸物的施設とともに新会社に承継されるべきものであるし、もしこの場合、種々の従業員について、企業主体においてほしいままに承継の対象から除外することを認めるならば、実質的には自由な解雇を認めるのと同様な結果となり、従業員の地位は極めて不安定になるばかりでなく、本件にあっては、前記のように本来国家の政策である民主的で健全な国民経済再建の基礎を作るために企業の合理的な再編成が行なわれることになったのである(集中排除法第一条参照)から、この機会に乗じその目的を逸脱し、これを他の目的に利用して、自由な解雇と同様の結果を得ようとすることは同法の目的趣旨に照らしても許されないと考えられるからである。
 しかして、本件の従業員の承継についても、前述のとおり承継されるべきものを特定する(表示されていない者については承継から除外する意思表示があったものとみる)方法も許されるとしても、承継から除外するにつき何らかの合理的な理由がなければ、その部分の意思表示は上叙の趣旨からして信義則違反ないしは権利の濫用として無効となり、除外する意思表示が無効であれば、特別の意思表示をしない限り、一切の契約等は被告会社に承継されるという企業再編成計画書の趣旨に従い、引き継ぎから除外された当該従業員の地位は当然に新会社に承継されることとなる。
 (中 略)
 A会社およびB会社から被告会社への従業員の引き継ぎは、引き継ぎの対象となる従業員を明示し、引き継ぎ対象者としてその氏名を明示されなかった従業員は承継から除外するという方法によって行なわれたのであるが(このような方法も企業再編成計画「諸契約の承継方法」の項が容認するものであることは前記(2)の2説示のとおりである。)、原告らは被告会社に引き継ぎ従業員として明示された者の中に含まれていないから、引き継ぎの対象者から除外されたものであることは明らかである。しかして、その除外された理由は、別紙(1)(2)の原告らについては引き継ぎの前日に雇用関係の終了を確認する内容の和解が成立したことであり、別紙(3)の原告らについては引き継ぎの日から約八か月以前に退職願を提出して退職していたことであるから、いずれも引き継ぎの対象から除外されたとしても、除外されたことにつき合理的な理由を欠くものとは認められない。
 (中 略)
 前記認定の和解成立の経緯からみても、右和解は一応第三者としての公的機関である福岡地方労働委員会の仲介により、数次の交渉を重ねて成立した和解であって、別紙(1)(2)の原告らが窮迫状態に乗ぜられてB会社ないしA会社から一方的に不利な和解を押しつけられたというような事実を認定するに足りる証拠はなく、前叙のように、むしろ、当時の諸情勢を検討して、不満ながらも金員を受領して紛争を終了させた方が得策であると考えて応じた和解であると認められるし、右和解が別紙(1)(2)の原告らの意思の欠缺状態において、あるいは真意に基づかずしてなされたと認めるべき証拠もなく、また、前記解雇ないし退職が仮りに違法無効であったとしても右のような和解成立の経緯に照らせば、そのことからただちに別紙(1)(2)の原告らの和解が公序良俗に違反するものとも解されないから、以上いずれの理由よりしても、同原告らが承継の対策から除外されたことにつき合理的な理由を欠くものということはできない。