全 情 報

ID番号 00464
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 宝塚映像事件
争点
事案概要  経営の行きづまりによる旧会社の解散に伴い解雇された従業員のうち、設立された新会社に再雇用されなかった者らが、新旧両会社は法的に同一性を有しており、旧会社の労働関係は新会社に承継されるべきである等として新会社での地位保全等求めた仮処分申請事件。(一部認容)
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
商法27条,28条,29条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 営業譲渡
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
裁判年月日 1984年10月3日
裁判所名 神戸地伊丹支
裁判形式 決定
事件番号 昭和58年 (ヨ) 96 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例441号27頁/労経速報1214号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労働契約―労働契約の承継―営業譲渡〕
 2 疎明によると、新会社設立の経緯は、前記二(解雇予告に至る経緯)記載のとおりであって、新会社の設立は、旧会社の人的、物的資源の承継を前提とするため、その企業としての存続を不能ならしめるものであるところ、新会社の設立は、旧会社の従業員の雇用の確保を主たる目的として進められたものであり、労使交渉においても、旧会社の役員(前記のとおり、新旧会社の経営陣にはほぼ変りがない)が新会社の雇用条件等につき実質的な決定権をもって臨んでいたものと一応認められる。
 以上の事実関係に照らすと、旧会社の労働関係は新会社に承継されるものと解すべく、したがって、債務者は債権者らに対し、条理上、法人格の異なることを主張し得ないものといわざるを得ない(けだし、右のような事実関係のもとにおいて、旧会社の労働関係が新会社に承継されないと解すると、旧会社の従業員は、新会社の設立によって企業としての存続が全く不能になった旧会社に対してのみ雇用関係を継続し得るにすぎないから、新会社の設立なかりせば継続し得た雇用関係を失う結果―早晩衰弱死が必至とみられる会社であっても、新会社の設立は、一層その死期を早めるものである―を強いられることになるが、旧会社の企業としての存続・建直しを、旧会社の整理合理化の方法により図るか、新会社設立の方法により図るかにより、旧会社の従業員の雇用関係に、理由なき不利益を生ぜしめることになるからである)。
 〔解雇―整理解雇―整理解雇の要件〕
 いわゆる整理解雇を行なうには、(1)人員整理の必要性があること、(2)人員整理の回避のため相当な努力が払われたこと、(3)解雇対象者の選定が、合理的な整理基準に基づくこと、のほか、(4)人員整理の必要性、整理基準等につき、労働者側に対し、十分な説明を加え、協議をなすこと、が必要な要件と解される。
 2 そこで、これを本件についてみるに、申請の理由に対する答弁二の1ないし6記載の各事実が一応認められることは既述のとおりであるから、右事実によると、本件解雇につき、整理解雇の前記要件のうち(1)及び(2)の要件が充たされていることは明らかであり、疎明によると、(3)の要件が充たされていることも一応認められるが、(4)の要件については疑問がある(とりわけ、抽象的な基準―六一ポストの選定―はともかく、具体的な人選の基準―技術的能力、勤務態度、勤続年数、年令、家族構成等に基づく基準―は示されておらず、説得力に乏しい)。
 加うるに、既述のとおり退職を希望しない債権者ら六名については、別途協議する旨の合意が成立しているが、疎明によると旧会社は、右合意の際、退職を希望しない債権者ら六名を新会社に採用する意思は当初から全くもっておらず(因みに、もし、協定の際、組合が、右の事実を知っておれば、協定は不成立に終っていたはずである)、したがって、右合意成立後、確かに、三役交渉、団体交渉を重ねてはいるが、それは、既定の方針を繰り返えすことに終始しており、本件解雇に至る長い労使間の協議のルール、経緯等に照らすと、旧会社において、前記合意を履行したとはいい難い。