全 情 報

ID番号 00502
事件名 雇用関係確認等請求事件
いわゆる事件名 三栄化工機事件
争点
事案概要  業務上の負傷のため休業する必要のあった旋盤工員が、会社代表者との間での賃金をめぐる対立の後に解雇されたので、従業員としての地位確認、賃金の支払を請求した事例。(請求一部認容、一部棄却)
参照法条 労働基準法19条,26条
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
解雇(民事) / 解雇制限(労基法19条) / 制限期間中の解雇予告
裁判年月日 1976年7月19日
裁判所名 横浜地川崎支
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ワ) 63 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例259号35頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔賃金―賃金請求の発生―無効な解雇と賃金請求権〕
 被告が同年八月二四日原告を解雇したが、右解雇が無効であることは前認定のとおりである。そうだとすると、特段の事情のない限り、原告の被告のために労働すべき債務は同月二五日以降被告の責に帰すべき事由によって履行不能になったといわなければならないから、原告は民法五三六条二項により被告に対し前記平均賃金の支払を求めることができる。被告は、原告は現実に労働の提供をしないから右賃金の支払を求めることができない旨主張するが、右法条により債務者である原告が反対給付である賃金の支払を請求するには、自己の債務につき履行の提供を必要としないと解すべきであるから、被告の右主張は採用の限りではない。
 (中 略)
 前記特段の事情の有無について判断するに、原告が同年八月二五日から一〇月一〇日まで前認定の負傷のため労働することができない状態であったことは前認定のとおりである。そして、右負傷が被告の責に帰すべき事由による旨の主張立証のない本件においては、右の期間原告が労働することができなかったのは被告の責に帰すべき事由によるとはいえない。したがって、原告は右期間については被告に対し賃金の支払を請求することができないといわなければならない(民法五六三条一項参照)。
 (中 略)
 被告は、原告は本件解雇後A株式会社に勤務し相当額の賃金を取得しているから、これを被告に請求する賃金額から控除すべきである、と主張する。原告が昭和四三年一〇月一一日からA株式会社に雇傭され、賃金の支払を受けていることは前認定のとおりである。そして、原告が右会社から取得した賃金が本件解雇がなくても当然取得できる副業的な利益であると認めるべき証拠のない本件においては、原告は民法五三六条二項但書に基づきこれを被告に償還すべきである。
 ところで、労働基準法二六条が使用者の責に帰すべき事由による休業の場合使用者に対し平均賃金の六割以上の手当を労働者に支払うべき旨規定しているのは、右民法五三六条二項但書による決済手続を簡便にするため、償還利益の額を予じめ賃金額から控除できることを前提として、その控除の限度を平均賃金の四割と定めたものと解するのが相当である(最高裁判所昭和三七年七月二〇日判決参照)。そして、原告がA株式会社から支払を受けた賃金の額を明確にする証拠はないが、特段の事情の認められない本件においては、その額は前記平均賃金の四割である一か月金二万五一五八円(円未満切捨)を下らないものと推認するのが相当である。したがって、原告が被告に請求できる賃金の額は前記平均賃金から右金額を控除した金額である。
 〔解雇―解雇制限(労基法19条)―制限期間中の解雇予告〕
 右認定の事実によれば、昭和四三年八月二四日になされた本件解雇の意思表示は、原告が業務上負傷し療養のために休業を必要とする期間内になされたことが明らかである。ところで、労働基準法一九条は業務上の負傷、疾病により心身ともに弱い状態にある労働者を保護するために療養のため休業を必要とする期間およびその後三〇日間は解雇の意思表示をすること自体を禁止してその地位を確保することを目的とするものである。この立法趣旨と同条一項但書が同法二〇条の場合と異なり労働者の責に帰すべき場合を除外していないことから考えれば、同法一九条によって制限される解雇は普通解雇だけでなく労働者の責に帰すべき事由に基づく懲戒解雇を含むと解するのが相当である。そうだとすると、本件解雇が普通解雇であれば勿論、仮に原告に就業規則所定の懲戒解雇の事由があることを理由とするものであっても、その事由の有無について判断するまでもなく、本件解雇は同法一九条に違反し無効であることが明らかである。そして、同条の前記立法の趣旨に照らせば、本件解雇が同条所定の解雇制限期間の経過によって当然その効力を生ずると解することはできない。