全 情 報

ID番号 00561
事件名 賞与・解雇予告手当・附加金請求事件
いわゆる事件名 大島園事件
争点
事案概要  集金業務に関するトラブルを引き起こし、会社代表者から「もう会社に出て来なくてもよい」という即時解雇の意思表示をされた労働者が、会社に対して未払い賞与および解雇予告手当の支払を求めた事例。(一部請求認容)
参照法条 労働基準法11条,20条,114条
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当請求権
雑則(民事) / 附加金
裁判年月日 1977年3月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 1870 
裁判結果 一部認容 一部棄却(確定)
出典 時報866号177頁/タイムズ364号231頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔賃金―賞与・ボーナス・一時金―賞与請求権〕
 原告が被告に雇用される際賞与は年二回支払うとの程度の合意があった(被告代表者の供述中この認定に反する部分があるが採用しない)。ところ、実際には、入社後一年程度を経過した従業員に対しては全員に対し、毎年七月と一二月に賃金一ケ月分以上の賞与が支給されてきたこと、原告も入社以来昭和四八年一二月までは右のとおり欠かさず受給しており、同年七月には賃金の一・五ケ月分に相当する一五万円を、同年一二月には二ケ月分に相当する二〇万円を受給したこと、被告代表者としても最低基準を一ケ月分とし、当該従業員の成績や勤務年数により裁量でそれを超える賞与を支払うとの方針で右のとおり処理してきたこと、昭和四九年七月にも原告を除く従業員に対しては一ケ月分以上の賞与が支給されたことがいずれも認められ、右に指摘したほか右認定に反する証拠はない。なお被告代表者は、右賞与はその支給日に在職する者に対してのみ支払う旨供述するけれども、その供述自体に照らし右はその意見にすぎないものと認めるべく、その供述と弁論の全趣旨によれば、むしろ、かかる社内規程ないし慣行は存しなかったものと認められる。
 右認定の事実に照らすと、被告においては、少くとも、経営状態が著しく劣悪でその支給により経営維持が危くなるとか当該従業員の勤務成績が著しく不良であるとかの特段の事情のない限り、毎年七月及び一二月に各賃金一月分以上の賞与を支給すべきことが労働条件の内容となっていたものと解するのが相当であり、そして昨今の企業一般における賞与の支給実態に鑑みると、一般に、賞与は単なる使用者の恩恵による給付ではなく、従業員の提供した労務に対する賃金の一種とみるべきであるから、特段の社内基準等のない限り、その支給の対象とされる労働期間の全部を勤務しなくても、またその支給日に従業員たる地位を失っていても、支給最低基準額(本件においては一ケ月分)については、支給対象期間中勤務した期間の割合に応じて、その請求権を取得するものと解するのが相当である。
 〔解雇―解雇予告手当―解雇予告手当請求権〕
 五 次に解雇予告手当請求権の成否について考えるのに、同手当を支払わないでなされた即時解雇の意思表示は労働基準法二〇条一項但書に定める場合のほかは元来無効なのであるから、従って同手当の請求権もこれを観念する余地のないのが原則であるけれども、本件のように意思表示後三〇日以内に従業員がこれを即時解雇として承認したような場合には、使用者において同手当を支払わない即時解雇に固執するものと認められる特段の事情のない限り(本件ではかかる事情は何ら存しない。)、従業員は以後その解雇の効力を争いえない代りに、同手当請求権を取得するものと解するのが相当である。蓋し、この場合右意思表示後同法二〇条一項所定の三〇日の期間を経過したときに解雇の効力を生ずると解することは、むしろ両当事者の意思にそぐわないため、例えば従業員が解雇の意思表示により労務の提供を放擲した場合に右三〇日の間の賃金請求権を失うと解すべきかどうかが問題になるなど、無用の混乱を招来しかねない反面、右請求権を認めても、実質上使用者に特段の不利益を与えるわけではない(同法一一四条所定の附加金について考えても、同手当の支払いのない即時解雇につき右のように三〇日前にする解雇予告と同様の効果を認める考え方をとっても、使用者が三〇日分の平均賃金に相当するものを支払わない場合には、同条の適用があると解すべきものである。)し、そして同法一一四条との対比において同法二〇条一項をみれば、この規定をもってかかる場合における同手当請求権の根拠とみることを妨げる決定的理由も見出し難い。
 〔雑則―附加金〕
 次に附加金の請求について考えるのに、右のとおり被告は原告に対し予告手当を支払わないで即時解雇し、よって労働基準法二〇条一項に違反したものであるところ、本件口頭弁論終結時までに右予告手当の支払いを完了するなどその義務違反の状態が消滅したとの点について何らの主張もない。被告は、本件が制裁としての附加金の支払いを命ずべき場合に該当しないと主張するところ、附加金の支払いを命ずるためには、右法条違反のほかに特別の帰責事由の存することを要件とするものではないが、ただその違反につき違法性を阻却する事由が存するときはもちろん、特に右違反に対し制裁を課すべきでないと認めるに足る特段の事情のある場合には裁判所は附加金の支払いを命ずべきでないものと解されるので考えると、原告に本件解雇の意思表示前に特段の不就労があったと認められないこと前三項判示のとおりであるほか、同項認定事実の下で本件解雇が原告の勤務意思の放棄に由来するものであるとか、被告に解雇の認識がなかったとかの事実を認めるに足る証拠はないし、他に被告において解雇の意思表示の際ないしそれに接着する時点において予告手当の支払いをしなかったことを是認しうべき事情も認められない。ただ、《証拠略》によると、被告は本件解雇の意思表示後一年半余を経た昭和五一年二月一七日になって労働基準監督署係官の指導に従って原告に対し、解雇予告手当その他を支払うから同月二七日に受領のため出頭するよう通知したところ、原告は右期日に出頭しなかったことが認められるが、その後間もない同年五月一一日の本件第一回口頭弁論期日に陳述した答弁書において本件解雇予告手当支払請求を拒絶する旨を明らかにしているのであるから、結局において現在被告は右義務違反の状態にあることに帰するし、また制裁を課するのを不相当とする事由ともなりえないというべきである。他に右違法性阻却事由ないし特段の事情を認めるに足る証拠はない。
 よって当裁判所は、被告に対し右不払いの解雇予告手当と同額の附加金を支払うべく命ずる。