全 情 報

ID番号 00562
事件名 従業員地位保全・賃金払仮処分申請事件
いわゆる事件名 北斗建設事件
争点
事案概要  契約実績が六ケ月間全くなく、営業成績が同僚の中で最下位であること、社内における言動が粗暴で会社や上司を誹謗し、その注意や命令に従わなかったこと、等を理由に解雇された不動産販売会社社員が、従業員たる仮の地位の保全および賃金の仮払いを求めた事例。(申請却下)
参照法条 労働基準法20条
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 労基法20条違反の解雇の効力
裁判年月日 1978年6月8日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ヨ) 2368 
裁判結果 却下
出典 労経速報983号6頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔解雇―解雇権の濫用〕
 債務者の就業規則には、通常解雇事由を定めた三九条三号「従業員の就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合」、通常解雇の手続を定めた四〇条「前条により解雇する場合は、次に掲げる者を除き三〇日前に本人に予告し、または労働基準法に規定する平均賃金の三〇日分に相当する予告手当を支給して行う。(以下略)」、制裁事由を定めた三七条一一号「業務上の指揮命令に違反したとき」の各規定(なお、三八条は制裁の種類として訓戒、減給、出勤停止、懲戒解雇をあげている)、営業社員給与並びに昇降格規定中「基本給一般級」の項に「四カ月間無成績社員は原則として解雇。但し勤務態度及び状態により特別に特設課に配置転換することもありうる」旨の条項が存する。
 (中 略)
 債権者は六カ月間契約実績がなく、営業成績は営業社員中最下位であり、その原因が怠慢ないし努力不足にあるといわれてもやむを得ないところである。しかも社内における言動は債務者に対する誹謗、上司に対する悪口などを中心としたものであり、上司の注意ないし命令に従わないことと相まって、その勤務態度は職場秩序を著しく乱すものといえる。右に加え、債権者が上司、同僚と著しく融和を欠き、仕事の面でこれらの者の協力を得ることができないことなどをも考慮すると、将来において営業成績が向上する見通しは期待できないものと考えられる。そして以上の個々の事由が前記就業規則三七条一一号、営業社員給与並びに昇降格規程の解雇に関する条項に該当することはもちろん、これを全体的に評価したとき就業規則三九条三号に該当することが明らかであり、これを理由として解雇されてもやむを得ない立場にあったといえる。
 (中 略)
 なお、債権者は、営業社員給与並びに昇降格規程の前記解雇条項が労働基準法の精神に反し無効である旨主張するが、右条項は四カ月の無成績を直ちに解雇に結びつけることなく勤務態度および状態をも考慮する余地を残しているうえ、本件解雇は既に説明したとおり、右条項を唯一の根拠とするものではないから、右主張は理由がない。
 叙上のところからすれば、本件解雇が解雇権の濫用にあたるものとは認め難く、他に解雇権の濫用を窺わせるに足は事由も見出し難いから、債権者の解雇権濫用の主張は採用できない。
 〔解雇―労基法20条違反の解雇の効力〕
 債務者が解雇予告手当として九九、三三〇円を供託したことは当事者間に争いがない。そして(書証・人証略)によると、右予告手当の額は、債権者に対する歩合給の支給実績を考慮せず、基本給のみによって算出したことが明らかである。しかしながら、営業社員の歩合給はその実質に照し労働基準法上の賃金に該当するものと解すべきところ、債権者が解雇を言い渡された昭和五一年七月一〇日以前三カ月間に支払われた歩合給の手取総額は、別紙「二歩合給表」番13号ないし15の合計額四〇一、六二二円であり(別紙各表の支給年月日、支給額等については当事者間に争いがない)、当事者間に争いがない事実および弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める(書証略)によると、債権者の昭和五一年四月分、同五月分、同六月分の各給与手取額はいずれも一一〇、〇〇〇円を下まわらないことが認められるから、債権者の三〇日分の平均賃金は少くとも二四〇、〇〇〇円を下まわらないことが明らかである。してみると、債務者が予告手当として供託した金額九九、三三〇円は、債権者に対する歩合給支給額を考慮せず算出され、かつ右の三〇日分の平均賃金半額にも満たない金額であるから、これを労働基準法二〇条にいう予告手当とみることはできず、予告手当として有効とはいえないものと解する。しかしながら、予告手当を支給しないで解雇の意思表示をした場合でも、使用者において即時解雇を固執する趣旨でない限り、その後予告手当を提供したときあるいはそれから三〇日を経たときに解雇の効力が発生すべきものと解すべきであり、本件においても疎明上債務者が即時解雇を固執しているものとは認め難いから、本件解雇は遅くともその意思表示後一カ月を経過したときには効力を生じたものというべきである。