全 情 報

ID番号 00566
事件名 仮処分控訴事件
いわゆる事件名 筑豊貨物自動車事件
争点
事案概要  賍物運搬の被疑事件で検挙され新聞に報道されたことを理由に会社の信用を著しく失墜させたとして解雇された労働者が、右解雇の効力停止を求めた仮処分事件の控訴審。(控訴認容、労働者敗訴)
参照法条 労働基準法20条1項,3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 就業規則所定の解雇事由の意義
裁判年月日 1952年6月19日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和26年 (ネ) 701 
裁判結果
出典 労働民例集3巻2号174頁
審級関係
評釈論文
判決理由  第六十三条は、左の各号の一に該当するときは、三十日前に予告するか、又は、三十日分の給与を支給した上解雇する。一、已むを得ず事業上の都合に依るとき。二、精神又は身体の故障があるか、又は虚弱、老衰、疾病のため業務に堪えられずと認めたとき、三、不都合の行為があったとき。四、其の他前各号に準ずる程度の已むを得ぬ理由があるとき、とあって、これを労働基準法第二十条の規定と対照すれば、他に特別の事由の認められない限り、本件就業規則第六十三条の解釈としては、同条各号に該当することを理由として、労働者を解雇する場合は、その限度において、労働基準法第二十条第一項但し書及び同条第三項の規定は、適用を排除され、右第六十三条本文所定の三十日前に予告をなすか、又は三十日分の給与を支給し、若しくは支払の提供をなすことが、解雇の効力発生要件をなすものと解すべきで、仮令労働基準法第二十条第一項但し書同条第三項によって、同条項所定の労働基準監督署長の認定を受けても、これを理由として、即時解雇をなし得ないものというべく、これは、労働基準法が、労働条件の最低基準を保置して、その低下を防止することを根本目的とすること及び右就業規則第六十三条が一の法規範と解することから出てくる当然の結果である。
 (中 略)
 被控訴人は、前記解雇の通告を受くるや、昭和二十六年八月十三日福岡法務局久留米支局に、同支局長を訪ね、解雇に予告期間なく、また、予告手当の支払なきことを訴えて、解雇の効力の有無等を尋ねたため、又その前に、前示被控訴人の被疑事件は、不起訴処分(起訴猶予処分であるか、犯罪の嫌疑なしとの事由によるかは、不明であるが)となったため、同支局長は、即日人権擁護委員A、同Bと共に、被控訴人を伴い、久留米労働基準監督署に赴き、同署々長その他の職員と種々交渉協議した結果、同人等の仲介斡旋により、被控訴人と控訴会社との間に、被控訴人は控訴会社のなした解雇を承認し、円満退職することとして、被控訴人から退職願を提出すること、控訴会社は、三十日分の平均賃金の外に休業手当奨励金を、同会社本町支店において、同月二十日支払うことの条項を取極め、以って雇傭関係を解消する契約が成立したこと、(従って、かかる場合控訴会社としては、反証ない限り右契約上支払うべき金員を、何時にても支払い得るよう支払日に準備していたものと認むるのが相当である。)しかるに被控訴人は八月二十日右金員受領のため、本町支店に出頭しないばかりか、その後、意を翻えして就労を懇請し来り、雇傭関係の存続を主張し、同年九月一日に至っては、成立に争ない甲第四号証内容証明郵便をもって、前記解雇の合意の存在を無視し解雇手当等の受領を明確に拒絶する意思を表示し来ったため、控訴会社は同月八日前記約定の金員を供託したことが疏明される。
 叙上の認定に反する、甲第十五号証の二、同第十七号証の二、同第十八号証、同第四号証の各記載は措信しない。その他に右認定を左右するに足る疏明資料はない。従って、前示雇傭の合意解約は、同年八月二十日(遅くとも同年九月七日)をもって、効力を生じ、被控訴人の本件保全請求権は消滅したというべく、従って、被控訴人の本件解雇を無効と主張して、仮処分を必要とする理由は、結局疏明がないことになり、本件仮処分申請は却下を免れない。